「結婚することになり生活の基盤が必要になった時、東京FMのディスクジョッキーのオーディションがありまして。土曜の十一時の社運を賭けたような番組で、それに抜擢されました。
そうしたら声の需要が高まり、『ヤマト』のデスラー総統役とかアニメーションの仕事やナレーションの仕事が来まして、それで喰えるようになりました。
でも、自分の中では『遠のいたな』という感覚が一番ありました。役者って、本来は全身を使ってなんぼのものですから。声だけが評価されるというのは、あまり好きではありませんでした。心のどこかに『いつかは──』と思い続けていましたね。
今でも役作りにそのころの経験は残っています。普通は心情から役に入るものなのでしょうけど、私はセリフを字面で捉えて、その音の強弱から考えていきます。どの音を立てようとか、どこで間を開けようとか。それが楽しい時間だったりします」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2017年6月2日号