小山市が即座にLRT化すると明言できない理由は、高岳引込線が非電化区間になっているからだ。LRTに転換するには、変電所や架線などの電化施設を新たに整備する必要がある。
検討委員会はLRT化した場合の事業費を約27億円、非電化のままディーゼル車を運行する場合の事業費を約20億円と試算している。費用面だけで比べると、LRT化の方が分は悪い。しかし、政府もLRTの整備には力を入れており、小山市が高岳貨引込線をLRT化すると約9億円が国から補助される。そうした国からの後押しもあり、小山市も高岳引込線をLRT化することに前向きだ。
高岳引込線のLRT転換には、解決しなければならない課題がまだ、いくつかある。現在、小山市はLRT転換した際に小山駅東口のロータリーに停留所を新設する予定にしている。
地図を見ると、高岳引込線の線路は東北本線(宇都宮線)とつながっており、そのまま小山駅に乗り入れることも構造的には可能なように思える。
わざわざ駅東口のロータリーまで線路を引っ張り、新たに停留所をつくらなくても、そのまま東北本線に線路をつなげてしまった方が建設費も安価で工期も短くなるはずだ。JRに乗り入れしない理由は、何なのだろうか?
「線路・停留所などの建設費や用地の取得費だけを考えれば、高岳引込線を宇都宮線にドッキングさせて、そのまま乗り入れした方が安上がりです。しかし、JRに乗り入れると東北本線のダイヤに影響を及ぼすことになります。ダイヤ変更には、コンピューターシステムを変える必要があり、その費用が莫大になります。そのため、小山駅東口のロータリーに線路を引き込み、LRTの停留所を新たに設置した方が安上がりなのです」(同)
ほとんど使われていない貨物線や引込線を活用しようと検討する動きは、ほかの都市でも始まっている。前述した葛飾区のほか、東京都江東区でも越中島支線と呼ばれる貨物線をLRTへの転換が議論されていた。江東区のLRT計画はかなり前に浮上したが、いまや地下鉄の整備を優先する方針が採られているために凍結状態にある。
LRTと言えば近未来的で響きはいいが、多くの人が路面電車に抱くイメージは昭和30年代に走っていたレトロなチンチン電車だ。そのため、わざわざ税金を投入して公共交通を整備するのなら地下鉄やバスを整備した方がいいといったLRTへの反対意見も根強い。LRTの整備計画の最大障壁は、市民の根底にある古いイメージを払拭することなのかもしれない。
小山市の計画は緒に就いたばかりで、これからもクリアしなければならない課題は出てくるだろう。宇都宮市が国内では自他ともに認めるLRTのトップランナーとして走り続けているだけに、同じ栃木県の小山市のLRT計画にも注目が集まっている。