◆これはダブルバインドだ
心理学の世界では表情を分析する際、職場ではなくプライベートな日常生活の時の顔を分析対象とすることが基本だという。職場では表情を「作ろう」という意識が強くなり、本音が漏れづらくなるからだ。そのため、由伸監督のベンチやインタビュー時の表情から読み取れる情報は限定的になる。ただ、それを踏まえた上でも気になるところがあると、渋谷氏が続ける。
「高橋監督は、カメラがほとんどいないベンチ裏の取材でも感情を露わにすることが少なくなっているという話を聞きます。負けが込んでいる時にあまり笑顔を見せるわけにいかないという気持ちはわかりますが、相当、自己防衛の意識が強い人だと考えられます。さらに、組織の中で、『ダブルバインド(二重拘束)』と呼ばれるコミュニケーション状況を作っているのではないかとも考えられます」
ダブルバインドとは、“相手の喜びそうなことをあえて怖い顔で伝える”といった具合に、矛盾した情報を相手に与える状況を指すという。
「褒める時も怒る時も表情を変えない。そういう上司は、部下にとっては“考えの読めない存在”になります。実は、会社組織においては優秀なリーダーが取ることのある手法で、うまく使えば適度な緊張感を生み出せる。ただ、やり過ぎると信頼関係を損ねます。団結力が求められるプロ野球チームのような集団ではリスクも大きいコミュニケーションの取り方です」(渋谷氏)