出勤は9時半。午前中は新聞の切り抜きをし、終わると議員に質問取り。上司が国会答弁をまとめたら、省内の幹部に持って行く。宿舎行きの最終バスは、深夜1時45分。だが、これに間に合わない。
「深夜2時まで作業することはザラでしたから。バスに乗れた時は嬉しいですよ。宿舎は築30年。3LDKの部屋を女子3人でシェアするんですが、みんな遅くてトイレ掃除とかもしないし、悲惨なことになってました(苦笑い)。仕事がうまくいかなくて上司に怒られて、国会の給湯室でよく泣きましたね」(山口さん)
2年で心身がボロボロになり、官僚を辞めた。
元農林水産省キャリア官僚のA氏(32才)もこう話す。
「研修で1か月農家に泊まり込みで勉強したり、本当に忙しい。農水は他省と時間軸が違うんです。やってすぐ結果が出る仕事ではなく、作物を作ったら成果がわかるまで何か月もかかる。とにかく仕事が地味なんです。宿舎は青山にあったけど、ボロボロだし、世間がイメージしてるような華やかな官僚生活とはまったく違って、泥臭い世界。若いうちは給料もメチャクチャ安いし、モチベーションを保つのが大変です。外資に行った大学の同期が5倍、6倍とか稼いでるのを聞いちゃうとね…」
彼もまた、20代後半で霞が関から去っている。
苦しい若手時代を乗り越え、30代前半になると、自分が出世レースのどのあたりを走っているか、わかるようになるという。
「判断材料は、失敗しないこと。官僚が出世する上でいちばん重要なのは、“無謬主義”なんです。自分がそのポストにいる時、何事も起こらなければ上に行ける。逆に何かあれば飛ばされる。だから足の引っ張り合いが起きる。ライバルを陥れ、失敗させて土俵からはじき出す。そんなことばかりしているうちに、いよいよ骨の髄まで出世至上主義に取りつかれ、“国のために”という当初の志が完全に消えていく」(前出・上杉氏)
ゆえに、この世代のキャリアの話題は人事が全てとなる。あいつが次の審議官らしい、あいつは出世の芽が消えたらしい…。誰が誰を出し抜いたか、誰が脱落したか、関心はその一点のみとなっていく。
もっとも、事務次官レースにはスタートラインから格差がある。理系の「技官」は文系より不利とされる。圧倒的に強いのは東大法学部。とりわけ財務省は東大閥で、旧大蔵省時代を含めて東大以外の事務次官は2人しか出ていない。
どこかで“失敗”し、出世レースから脱落すると、50才前後から次々と早期退職をして民間企業や関連団体などに天下っていく。本来ならば省庁で定年まで働いてもいいが、彼らはプライドで生きている人間。自分より出世した同期と一緒に働くことができないのだという。
※女性セブン2017年7月13日号