国内

自宅で看取った最期 家族は遺体の前で笑顔になれる

在宅医療について語る医師・小笠原文雄さんと女優・室井滋さん

「最期まで自宅で暮らしたい」と望みながらも、多くの人が病院で最期を迎えているのはなぜか。自宅で最期まで過ごすのは無理だと思っている、あるいは病院の方が長生きできると思っている人も多いだろう。

 しかし実際には、お金がなくても、ひとり暮らしでも、誰でも最期まで家で朗らかに生きることができ、自宅に帰ったことで余命が延びた人までいる…このたび、そんな奇跡と笑顔のエピソードが詰まった『なんとめでたいご臨終』(小学館)を著した在宅医療の医師・小笠原文雄さんと、女優・室井滋さんの初対談が実現した。

 * * *
室井:本の中で、先生が患者さんから「そろそろ死ぬのかな?」と聞かれて、「死ぬかもねぇ」と答える場面があって、すごい会話だと思いました。こんなことが言えるのは素晴らしいですね。だって怖がっていたって、みんないつかは死ぬわけですから。

小笠原:出張先のドイツから患者さんに電話して、「あれっ、あなた、まだ生きてるの?」「先生を待っていたけど、旅立つわ」と笑い合ったこともありました。結局、その患者さんはぼくが帰国するまで生きて、おみやげを渡すことができました。

室井:でも、「あなたはあと1週間で死にます」みたいなことは、誰がどんなふうに伝えるかが、すごく重要でしょう?

小笠原:心が通っていない人、気が通っていない人が言ったら、それこそ大変なことになります。ぼくたちもいきなりは言いません。心が通って、笑顔になってから話します。

室井:どんなふうに話すんですか。

小笠原:例えば、病院に入院していて、痛くて苦しくて一晩中眠れない人がいたら、緊急退院してもらって、腹をくくって2時間ぐらい話をします。最期が近いこと、在宅での緩和ケアについても説明します。その日のうちに笑顔にするのがわれわれのモットーです。目を見て、手を握ってゆっくりと時間をかけて話すと、ほとんどの人は笑顔になります。

室井:手を握るんですか。

小笠原:必ず握手をして、その時、人差し指を伸ばして、さりげなく脈をとります。すると馬が駆けるような音なのか、やわらかい音なのか、緊張度はどうなのか、気が感じられます。その気に合った話し方で、余命を伝えます。

室井:なるほど。

小笠原:自分が死ぬと覚悟しないと、長生きできないんですよ。死があるからこそ生が輝く。そのことに気づいて、ぼくは「あなたは死ぬんだよ」とちゃんと言えるようになりました。 生きている間に子供に遺言を伝えるとか、1週間後、2週間後の具体的な目標を決めると、それだけはやり遂げようと生きる力がわいてきます。がんでお腹がゴリゴリしていたのに、消えてしまった人もいました。

室井:本に載っていましたね。びっくりしました。本当に不思議です。

小笠原:副院長が「奇跡だ、奇跡だ」ととんできたけど、その時はぼくもびっくりしました。常識では語れないようなことが在宅医療の現場では起きるんです。

◆涙を流しながらも「よかった、よかった」

室井:先生はこの対談の中で気という言葉を何回か使っていますけれど、人間は気に左右されることがありますか。

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
このほど発表された新型ロマンスカーは前面展望を採用した車両デザイン
小田急が発表した新型は「白いロマンスカー」後継だというけれど…展望車復活は確定だが台車と「走る喫茶室」はどうなる?
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン