小笠原:ぼくが思うに、病院で「持続的深い鎮静」をいつも行っていた医師が、そのまま在宅医療でも使っているんじゃないか、と。
在宅ホスピス緩和ケアは、医師が主体となって行う緩和医療ではなく、医師、看護師、ヘルパーなどの総合力でやる「チーム医療」です。医師免許がないとできないことは、もちろん医師がやりますが、主力は現場の看護師さんやヘルパーさん。彼らが患者さんの生きる力を引き出すんです。そうすれば、「持続的深い鎮静」を行う頻度が劇的に減ります。
だけど「持続的深い鎮静」を行う医師は、どうも看護師さんとかヘルパーさんのそういう力を信じてないようで。医療と介護の連携ができるはずがないと、公言しているドクターが多いと聞いています。
上野:あら、そうなんですか?
小笠原:そういう考えだと、医療と介護の連携ができず、家族の負担を増やすばかりか、結局、患者さんの痛みのコントロールができないんですよ。その点、「持続的深い鎮静」をすれば、医師は患者さんが亡くなるまで、ある意味何もしなくていいようなものですからね。
在宅医療は家族が大変だと思われがちですが、ヘルパーさんや訪問看護師などの公的制度を使えば、ご家族の負担も減って、結果的に患者さんの痛みも減るんです。つまり家族ケアが得意で、モルヒネの使い方が上手な医師のチームで在宅ホスピス緩和ケアを行う場合は、「持続的深い鎮静」をやらなくて済むんです。「持続的深い鎮静」をされた患者さんは、「愛してる」とか「ありがとう」は言えないですからね。
上野:つい最近、緩和ケアをやっているドクターが書いた『その鎮静、ほんとうに必要ですか』(大岩孝司・鈴木喜代子著)という本を読んで、すごく面白かったんです。疼痛を、「感覚と情動の合成物である」と定義していました。
小笠原:なるほど。名言ですね。
上野:私も深く深く納得しました。感覚と情動の両方、もしくはどちらかをコントロールできれば、緩和できるとあって。
小笠原:そう、できるんですよ。痛みを我慢したり、痛みが取れないと、同じ痛みでも2倍、3倍に増え、耐えがたい痛みにパニックになることもあります。一方で、痛い・つらい・苦しいという患者さんが退院して自宅に帰れたことだけでも、痛みがかなり取れるんです。それだけ家は癒やしの空間なんでしょうね。
※女性セブン2017年7月27日号