本書が中心的に論じる大正知識人の中に柳田、折口の名はないが、両者の大正思想への位置付けが可能になるだけでなく、「自我と共同体のロマン主義的融合」とは、なるほどラノベに於けるセカイ系であり、「社会」を嫌うネトウヨ的自我が神武天皇のY染色体に男系の血脈を見る向きにつながる。
他方では、「無意識」「固有信仰」に固執し始めた近頃の柄谷行人にも案外と露呈しているなど、実は、思いのほか現在のこの国の思想状況の整理にも有効である。40年以上前に提出された博論でありながら、大正思想の前史としての明治から現在までを見通せる力が今もある。
※週刊ポスト2017年8月4日号