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2017.07.27 16:00  週刊ポスト

津川雅彦 「ラブシーンは、殺陣である」

「伊丹監督は徹底的に突き詰める人だった。ある時『今の良いねー。99パーセントの出来だ』って言うからOKなのかと思ったら『もう一度やって100パーセントにしよう』って。あの方は完璧じゃないとOKを出さない。全てに徹底していたね。

 撮影は大概ワンシーン・ワンカット。芝居が最後まで流れるので、役者にとっては良い緊張感になる。カットを切るのはショック療法だから、多いと芝居にアクセントが入りすぎる。

 難を言えば、注文が多い。たとえば、歩いて来てセリフを言いながら空き缶を蹴れと言う。蹴ると今度は『カメラ側の左足で蹴ってくれ。ブレスは缶を蹴る前に』と注文が出る。すると蹴る時のセリフの場所と共に缶までの歩数も決めなきゃならなくなるから、セリフが頭の中でゴチャゴチャになってしまう。

 その要求に軽く対応するためには、まずセリフを完璧に覚えなくちゃいけない。僕は車の運転をしながらチェックをしたね。運転中は信号、横断歩道、通行人、対向車と気をとられることが多いからね。それでもセリフだけは滑らかに出てくるようになれば、撮影中のどんな注文にも混乱しなくなるからさ。

 しかしそこまでセリフを入れるのには、二週間はかかった。毎日覚えては忘れ、そしてまた覚え直しては忘れる。これを繰り返していると、段々と覚え直す時間が短くなり、最後にはどんなややこしい注文にも忘れなくなる時が来るんだね」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

◆撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2017年8月4日号

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