「舞台の幕が開いて5、6分経つぐらいまでに、その日のお客さんのタイミングを掴まないとダメです。これはコンマ何秒の世界なんだけど、『この間だ!』っていうのがビリビリッと伝わって来る。その日のお客さんが教えてくれるんです」
だがその日うまくいったからといって、次の日もそうとは限らない。
「舞台は、ただ繰り返したんじゃあ、ダメなんです。終わってからも『あそこをもっとこうしたほうが良かったかな』と考え続けます。で、次の日、提案する。一緒に舞台を作ることの多い三宅裕司さんに言われたことがあります。『伊東さんって楽屋に入る時に、“おはよう”が先に来ないで、“ねぇ、ねぇ、あそこなんだけどさ”が先に来ますよね』って」
伊東が「笑い」にこだわる理由──。
「だって人間しか笑わないから。他の動物は笑いませんからねぇ。人間に備わった特権を生かさなくて、どうするんだって。それに世間では顔をしかめる話ばかりでしょ? 笑いたい人はいっぱいいるはずなのにね。笑う機会が少ないのはもったいない。
このあと? いつまで続けられるかわかりませんけど、みっともないのは嫌だから、日々体は鍛えていますよ。腹筋に腕立て、5kgのダンベル……。痩せた役ができないのはまずいから。
ところで理想は、いつの間にかいなくなっているというのがいいね。『あれ? 最近、伊東四朗見かけないけど、やめたのかな?』っていうのがね」
こう言うと伊東は「ニッ」と笑った。
◆いとう・しろう/1937年生まれ、東京都出身。浅草軽演劇の役者を経て、1961年、のちの「てんぷくトリオ」となるトリオを三波伸介、戸塚睦夫と結成。1960年代半ばより、『九ちゃん!』(日本テレビ系)、『てなもんや三度笠』(ABC系)などでテレビに進出。1975年からは小松政夫とのコントで一世風靡し、1979年のクイズ番組『ザ・チャンス!』(TBS系)で司会者としても才能を発揮。1980年代以降は、ドラマ・映画に多数出演し、コメディからシリアスなものまでできる演技派俳優として活躍する。今クールのドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)にレギュラー出演中。
■撮影/二石友希、取材・文/角山祥道
※週刊ポスト2017年8月11日号