◆観に行った劇で誰も笑わずゾッとしたことも…
伊東はかつて、作家の五味康祐から、「君は双子座の6月15日生まれか。一年のちょうど半分のところで生まれたから、多重人格だよ。役者には向いてるかもしれんな」と言われたという。
「そうかもな、と思いましたね。今じゃ、本当の自分が何なのかよくわからない。で、仕事が来るたび、『なぜ?』と聞いてしまう。NHKの『おしん』の父親役が来た時も、『なぜですか? 私、電線マンでしたけどいいんですか』って聞きましたもん。考えてみたら、『なぜ?』って思ってるうちに、80歳になっちゃったね。これもそうだよ、週刊ポストがなんでまた、オレんとこ来たの?」
渋い役どころを演じる俳優業に司会業。舞台にテレビ、映画にラジオ……。「なぜ?」と本人は言うが、伊東はジャンルを超えて時代時代に代表作を残してきた。だが、あらゆる仕事の根本にあるのは「自分は喜劇役者だ」という確固たる思いだ。
「喜劇役者と名乗っていますが、実はその後ろにカッコが付いていて、中に(になりたい)が隠されている。喜劇役者だってはっきり言えないもどかしさがあるの。まだなり切れてないっていうかね。怖いんですよ、喜劇は。『喜劇』ってサブタイトルを付けた舞台を観に行った時に、観客がひとりも笑わなかったことがあるんです。他人事じゃなくて、ゾッとしましたね」
喜劇は「間」だと伊東は考える。