さらに不倫の真相について突っ込まれると、汗を拭って「越えていません」と答えたものの、今度は口元をきつく結ぶと口先をやや尖らせてふくらませた。言ったところで信じてもらえないという困惑とかすかな怒りが、この仕草から見て取れる。
ところが、「今井議員も一線を越えていないと強調しているが?」と言われた瞬間、表情は一変する。スーッと大きく息を吸うと、首をすくめてあごを引き、おでこにシワが寄るほど眉を上げ、下まぶたを緊張させて目を大きく見開き、眉間にシワを寄せたのだ。このように短く強烈な表情は、その人が感情を隠していることを暗にほのめかしていると、心理学者のポール・エクマンは言っている。
これは驚いた時によく見られる表情だが、首をすくめてあごを引いたのは、心配や恐怖に対して身構えようという無意識の仕草だ。下まぶたが緊張したまま目を見開いたのも、眉間にシワが寄ったのも、心の底に動揺や恐れがあったからだと思われる。
事実がどうであれ、今井議員もFAXで報道各社に宛て、一線は越えていないと強調していた。橋本市議がそれを知らないわけがない。それに会見前に、今井議員とどう釈明するのか話をしたと考えるのが普通だろう。
いったい橋本議員は何を恐れ、何に動揺したのだろう?
推測にすぎないが、もしかすると、今井議員の心が今回の騒動で離れてしまうかもしれない、そんな不安が市議の心をよぎったのではないだろうか。他人の口から「今井議員が、強調している」と聞いたことで、自分の存在が否定されていくような、遠ざけられていくような感覚が、にわかに現実味を帯びたのではないだろうか。
そう考えると、「こんな事態になったがこれから先の関係は?」と聞かれ、下唇を噛んで唾を飲み込み、「希望としてはまぁ…」と言葉に詰まって視線をそらし、ごにょごにょと言葉を濁してしまったのもわかる気がする。憧れのスターを前にして、立場を忘れて舞い上がってしまった市議の心に、浮かんだかもしれない恋の結末。
この会見を見ていて思い出したのは、1984年にブームとなった不倫恋愛映画『恋に落ちて』のあるワンシーン。舞台はニューヨーク、主演は若い頃のロバート・デニーロとメリル・ストリープ。お互い家庭のある二人が偶然出会い、恋に落ちながらも一線を越えずに別れてしまうという映画だが、夫の不倫に気づいた妻が、それを問い質した後に言ったセリフが深かった。
「プラトニックな方がもっと悪い」。
こんな恋心を引きずったまま、市議は今後、まともに議員活動できるのか? なんといっても、それが一番心配。