◆クラブでの出会い、名刺の安心感
元気のないレイカさんを連れ出してくれたのは、幼馴染の友人だった。
「レイカは自分の楽しみを追求すればいいんだ、って言ってくれる唯一の友人で。二人で盛り上がって、久しぶりに渋谷のクラブに出かけたんです。そこで出会ったのが夫でした。彼も友人と二人で来ていて、話しかけられて。第一印象は、音楽に詳しくて、落ち着いた感じの人、というだけでしたが」
そのとき、レイカさんは正樹さんの年齢を知らなかったし、気にならなかった。「暗いところで出会ったのがよかったのかもしれません」と笑う。
それほど盛り上がったわけではないが、悪い印象はなかった。ラインではなく、彼は自分の会社の名刺をレイカさんに渡した。
「職場が近かったんです。知らない会社だったけど、信頼できました。で、時間が合うとき、ご飯でも行こうよと誘われたんです。『オレは独身だから、外食が多いんだ、だから気が向いたときに付き合ってくれたら、嬉しい』と」
一度の出会いでレイカさんは正樹さんの会社名、独身であること、音楽の趣味が合うことを知った。慎重なレイカさんとって、これらの情報は大きな安心材料になったはずだ。
「仕事がヒマな日に、メールをしました。そして食事に行ったのです。そのときに、彼が43歳であることを知りました。そんなに年上なんだ! と正直、驚きましたが、そのときは、付き合うことになるとは思ってなかったので、そのくらい年上の人のほうが話していてラクかも、と思ったんです」
気がラクだったがゆえに、「レイカちゃんは美人だから凄くモテるでしょ」と聞く正樹さんに、自分は実は恋愛経験がないこと、それがコンプレックスであることを、素直に打ち明けることができた。男の人の前で自分をさらけ出していることが意外でもあり、嬉しくもあった。
さらに意外だったのは、正樹さんがさして驚いた様子もなく、こう言ったことだった。「まだ20代だし、恋愛経験なくてもぜんぜんヘンじゃないと思うよ。43歳のオレから見ると、これからだもん。これから楽しいこと一杯あるよ」
気づいたら、涙腺が緩んでいた。慌てる正樹さんに、そういってもらえて嬉しいと伝えられたかどうか、はっきりと覚えていない。