国際情報

北の核実験で習近平の怒りも頂点に 血で固めた友誼どうなる

中国が金正恩政権の排除に動き出す可能性も

 北朝鮮が9月3日、6度目の核実験を行った。とうとうトランプ大統領の堪忍袋の緒が切れるのだろうか。しかし、堪忍袋の緒が切れるのはトランプ大統領だけではない。中国の習近平主席も同じ思いかもしれない。朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏が、友好関係に亀裂が入りかねない中朝関係についてレポートする。

 * * *
 トランプ大統領は9月3日、ツイッターに「北朝鮮の言動は引き続き、米国に対し非常に敵対的で危険だ」と非難した。一方、中国外務省も同日、「断固たる反対と強い非難」という声明を発表している。

 このように、今回の核実験をめぐり、米朝関係だけでなく、中朝関係、すなわち習近平と金正恩の関係も悪化した。

◆中国による金正恩排除

 これまで北朝鮮を擁護してきた中国でも、なりふり構わない北朝鮮の行動や言動に対しては我慢の限界というものがある。金正恩はいまだに中国を訪問していないばかりか、中国を名指ししての批判まで行った。このような指導者を中国はいつまでも放置しないだろう。

 習近平主席が「現状維持よりも金正恩を排除したほうが得策」と判断した場合、北朝鮮への経済支援を完全に停止するなどして圧力をかけ、金正恩を亡命させて政権を崩壊させるかもしれない。

 中国が金正恩排除を実行する可能性があるのは、中国にとって米軍との緩衝地帯としての「朝鮮半島北半分」の地域が必要となるためなのだが、そのためには中国に従順な政権である必要がある。

 そもそも中国にとっては、緩衝地帯となる地域の指導者が金正恩である必要はなく、その地域が「朝鮮民主主義人民共和国」である必要もない。中国のコントロール下に置くことができればいいのだ。従って、中国に反発するような政権は必要ない。

 ただ、中国にとっての金正恩排除後のリスクは、北朝鮮からの難民の流入である。この問題は非常に厄介だが、金正恩排除後に直ちに中国軍が北朝鮮北部を占領し、中国へ北朝鮮難民が押し寄せるのを防ぐための安全地帯を設ける可能性もある。

◆悪化を続ける中朝関係

 中朝関係は「血で固めた友誼」で結ばれていると言われている。これは、朝鮮戦争を通じて血で固められた友情を意味する。この関係を明文化したものが、1961 年 7 月 11 日に締結された「中朝友好協力相互援助条約」といえる。

 この条約の第2条では、「いかなる国家からの侵略であってもこれを防止するため、全ての措置を共同でとる」「締約国の一方が戦争状態に陥った場合に、締約相手は全力をあげて、遅滞なく軍事的およびその他の援助を提供する」と規定している。

 しかし、このような規定があっても、中国は自動的に軍事支援を行うことはないだろう。中朝はもはや同盟関係とはいえないからだ。また、この条約は20年ごとの自動更新で、前回は2001年に更新されたのだが、2021年に更新されるかどうかは微妙なところだろう。

 中朝関係が微妙になっているのは、中国国防省は公式には認めていないものの、今年4月以降に次のような報道があったことからも垣間見える。

【中国軍が臨戦態勢に次ぐレベルの「2級戦備態勢」に入り、中朝国境地帯に10万~15万人規模の兵力を展開した】
【中国空軍の爆撃機が「高度な警戒態勢」に入った】
【中国が国境付近で軍を改編・増強し、核・化学兵器の攻撃に備えて地下壕を整備している】
【北朝鮮へ派遣される可能性がある特殊部隊などの訓練や、武装ヘリコプターによる実弾演習を行った】

 軍の動向以外にも、中国共産党機関紙「人民日報」系の国際情報紙「環球時報」が今年4月以降、頻繁に北朝鮮への警告と受け取れる内容の記事を掲載している。

 しかし、北朝鮮の中国に対する態度は、既に2013年に変化していた。軍や秘密警察の幹部に対し、「中国に幻想を持つな」「有事には中国を敵とみなせ」とする思想教育を進めていたというのだ。(「産経新聞」2013年12月29日)

 北朝鮮が友好国である中国を露骨に批判した文書が明らかになるのは異例だが、2015年にも、朝鮮労働党が国連安全保障理事会の制裁に同調する中国の動きを「敵対視策動」と見なして猛反発し、党中央が地方組織の下級幹部向けの講習会で、米国に対抗するための闘争を党員らに指示している。(「時事通信」2016年3月28日)

関連記事

トピックス

高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年、第27回参議委員議員選挙で使用した日本維新の会のポスター(時事通信フォト)
《本当に許せません》維新議員の”国保逃れ”疑惑で「日本維新の会」に広がる怒りの声「身を切る改革って自分たちの身じゃなかったってこと」
NEWSポストセブン
防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
《浜松・ガールズバー店員2人刺殺》「『お父さん、すみません』と泣いて土下座して…」被害者・竹内朋香さんの夫が振り返る“両手ナイフ男”の凶行からの壮絶な半年間
NEWSポストセブン
寮内の暴力事案は裁判沙汰に
《広陵高校暴力問題》いまだ校長、前監督からの謝罪はなく被害生徒の父は「同じような事件の再発」を危惧 第三者委の調査はこれからで学校側は「個別の質問には対応しない」と回答
NEWSポストセブン
ドジャース・山本由伸投手(TikTokより)
《好みのタイプは年上モデル》ドジャース・山本由伸の多忙なオフに…Nikiとの関係は終了も現在も続く“友人関係”
NEWSポストセブン
齋藤元彦・兵庫県知事と、名誉毀損罪で起訴された「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志被告(時事通信フォト)
NHK党・立花孝志被告「相次ぐ刑事告訴」でもまだまだ“信奉者”がいるのはなぜ…? 「この世の闇を照らしてくれる」との声も
NEWSポストセブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・“最上あい”こと佐藤愛里さん(Xより)、高野健一容疑者の卒アル写真
《高田馬場・女性ライバー刺殺》「僕も殺されるんじゃないかと…」最上あいさんの元婚約者が死を乗り越え“山手線1周配信”…推し活で横行する「闇投げ銭」に警鐘
NEWSポストセブン
親子4人死亡の3日後、”5人目の遺体”が別のマンションで発見された
《中堅ゼネコン勤務の“27歳交際相手”は牛刀で刺殺》「赤い軽自動車で出かけていた」親子4人死亡事件の母親がみせていた“不可解な行動” 「長男と口元がそっくりの美人なお母さん」
NEWSポストセブン
トランプ大統領もエスプタイン元被告との過去に親交があった1人(民主党より)
《電マ、ナースセットなど用途不明のグッズの数々》数千枚の写真が公開…10代女性らが被害に遭った“悪魔の館”で発見された数々の物品【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン