そんな曽祖父と西郷さんの仲を引き裂いたのが西南戦争だった。警察組織という立場上、「反乱軍」である西郷軍と戦わざるを得なかった曽祖父は、東京警視本署が組織した警視隊の参謀として参戦し、熊本の阿蘇山麓にある二重峠での戦いで被弾して左足を失った。西郷さんも壮絶な戦いの果てに自刃した。

 親兄弟まで敵味方に分かれて戦ったこの戦争で、鹿児島全体が深い傷を負った。米国の南北戦争のように、新しい国家をつくる土台となったが、西郷さんと戦った薩摩人には今も大きな悲しみと悔いが残る。

 西郷さんに引き立てられたことで、後に東京・鍛冶橋監獄で「隻脚の刑務所長」となった曽祖父も忸怩たる思いをした一人だった。晩年、雑誌の取材に“西南戦争時、本当は西郷軍に加わりたかった”と苦しい胸の内を明かしている。もっとも彼が西郷軍に入っていれば、今のぼくはいなかっただろう。

 西郷さんの死から10年後、曽祖父は薩摩出身の検事であり画家だった床次正精(とこなみまさよし)が描いた西郷さんの肖像画を手に西郷従道、黒田清隆ら、生前の西郷さんを知る人のもとを駆けずり回り、何度も修正を加えて本人に似た絵を完成させた。大恩人のため、何かを残したいとの一心だったに違いない。

 近代警察の設立に奔走したお堅い人物のひ孫がジャズマンとは数奇な巡りあわせだが、ぼくは自分が西郷さんはじめ薩摩の人の血を引くことが誇らしい。これからも“よい薩摩人”でありたいと思っている。

【PROFILE】山下洋輔●1942年東京生まれ。ジャズピアニスト、作曲家、エッセイスト。国立音楽大学卒。西郷と曽祖父、祖父について書いた『ドバラダ門』(新潮社)、『ドバラダ乱入帖』(集英社)など著書多数。近著に『ジャズの証言』(共著、新潮新書)がある。

※SAPIO2017年10月号

関連記事

トピックス

国際ジャーナリスト・落合信彦氏
【訃報】国際ジャーナリスト・落合信彦氏が死去、84歳 独自の視点で国際政治・諜報の世界を活写 
NEWSポストセブン
元日に結婚を発表した女優の長澤まさみ(時事通信フォト)
長澤まさみ「カナダ同伴」を決断させた「大親友女優」の存在…『SHOGUN』監督夫との新婚生活は“最高の環境”
NEWSポストセブン
薬物で急死した中国人インフルエンサー紅紅(左)と交際相手の林子晨容疑者(右)(インスタグラムより)
「口に靴下を詰め、カーテンで手を縛り付けて…」「意識不明の姿をハイ状態で撮影」中国人美女インフルエンサー(26)が薬物で急死、交際相手の男の“謎めいた行動”
NEWSポストセブン
晩餐会に出席した真美子さんと大谷(提供:soya0801_mlb)
《真美子さんとアイコンタクトで微笑み合って》大谷翔平夫妻がファンを驚かせた晩餐会での“サイレント入退場”「トイレかなと思ったら帰っていた」
NEWSポストセブン
畠山愛理と鈴木誠也(本人のinstagram/時事通信)
《シカゴの牛角で庶民派ディナーも》鈴木誠也が畠山愛理の肩を抱き寄せて…「温かいご飯を食べてほしい」愛妻が明かした献身性、広告関係者は「大谷&真美子に引けを取らないパワーカップル」と絶賛
NEWSポストセブン
最新情勢をもとに東京の30選挙区の当落を予測した(時事通信フォト)
【2・8総選挙「東京1〜10区」の最新情勢】公明の連立離脱で現職閣僚が落選危機か 自民の優勢が伝えられるなか中道の前職がリードする選挙区も
NEWSポストセブン
第74回関東東海花の展覧会を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2026年1月30日、撮影/JMPA)
《雪の精のよう》佳子さま、ゴールドが映える全身ホワイトコーデに上がる賞賛の声 白の種類を変えてメリハリを出すテクニック
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせインフルエンサー、ボニー・ブルー(TikTokより)
《あなたが私を妊娠させるまで…》“12時間で1000人以上と関係を持った”金髪美女インフルエンサー(26)が企画を延期した真相に「気色悪い」と批判殺到
NEWSポストセブン
イラク出身のナディア・ムラドさん(EPA=時事)
《ISISに囚われた女性が告発》「お前たちは “奴隷” になるためにいる」「殴られ、唾を吐きかけられ、タバコの火で焼かれた」拉致された末の“生き地獄”の日々とは
NEWSポストセブン
ハナ被告の相次ぐ麻薬関連の容疑は大いに世間を騒がせた(Instagramより。現在は削除済み)
《性接待&ドラッグ密売の“第2の拠点”をカンボジアで計画か》韓国“財閥一族のミルク姫”が逮捕、芸能界の大スキャンダル「バーニング・サン事件」との関連も指摘
NEWSポストセブン
アワードディナーに初めて出席した真美子さん(提供:soya0801_mlb)
《鎖骨見せワンショルで“別人級”》大谷翔平の妻・真美子さん、晩餐会ファッションで見せたジャパン推しの“バランス感覚”【専門家が解説】
NEWSポストセブン
サンシャインシティ文化会館を訪問された佳子さま(2026年1月30日、撮影/JMPA)
《メイク研究が垣間見える》佳子さま、“しっかりめ”の眉が印象的 自然なグラデーションを出す描き方、ナチュラルなアイシャドウやリップでバランスも
NEWSポストセブン