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2017.10.01 07:00  SAPIO

ジャズピアニスト・山下洋輔が語る西郷隆盛との奇縁

 そんな曽祖父と西郷さんの仲を引き裂いたのが西南戦争だった。警察組織という立場上、「反乱軍」である西郷軍と戦わざるを得なかった曽祖父は、東京警視本署が組織した警視隊の参謀として参戦し、熊本の阿蘇山麓にある二重峠での戦いで被弾して左足を失った。西郷さんも壮絶な戦いの果てに自刃した。

 親兄弟まで敵味方に分かれて戦ったこの戦争で、鹿児島全体が深い傷を負った。米国の南北戦争のように、新しい国家をつくる土台となったが、西郷さんと戦った薩摩人には今も大きな悲しみと悔いが残る。

 西郷さんに引き立てられたことで、後に東京・鍛冶橋監獄で「隻脚の刑務所長」となった曽祖父も忸怩たる思いをした一人だった。晩年、雑誌の取材に“西南戦争時、本当は西郷軍に加わりたかった”と苦しい胸の内を明かしている。もっとも彼が西郷軍に入っていれば、今のぼくはいなかっただろう。

 西郷さんの死から10年後、曽祖父は薩摩出身の検事であり画家だった床次正精(とこなみまさよし)が描いた西郷さんの肖像画を手に西郷従道、黒田清隆ら、生前の西郷さんを知る人のもとを駆けずり回り、何度も修正を加えて本人に似た絵を完成させた。大恩人のため、何かを残したいとの一心だったに違いない。

 近代警察の設立に奔走したお堅い人物のひ孫がジャズマンとは数奇な巡りあわせだが、ぼくは自分が西郷さんはじめ薩摩の人の血を引くことが誇らしい。これからも“よい薩摩人”でありたいと思っている。

【PROFILE】山下洋輔●1942年東京生まれ。ジャズピアニスト、作曲家、エッセイスト。国立音楽大学卒。西郷と曽祖父、祖父について書いた『ドバラダ門』(新潮社)、『ドバラダ乱入帖』(集英社)など著書多数。近著に『ジャズの証言』(共著、新潮新書)がある。

※SAPIO2017年10月号

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