同書が取り上げたのは米国の研究結果(1997年、米国医師会雑誌『JAMA』掲載)で、それによると、高齢者の塩味を感知する能力は、健康な若い人に比べて約12分の1だという。平松氏が解説する。
「つまり、約12倍の塩を使わないと、若い頃と同じ味に感じられないということです。この研究では、若年層と同じ味を感じるために、高齢者は苦味は7倍、うまみは5倍、酸味は4.3倍、甘味は2.7倍の刺激が必要になるとしています。塩味についての違いが突出して大きく、だからこそ高齢者は塩分の強い食事をとりがちなのです」
こうした違いが生まれるのは加齢とともに「味覚障害」を発症する人が増えているからだと考えられている。
「名前の通り、味が感じられなくなっていく症状がみられる疾患です。人間の味覚を司るのは舌にある味蕾という器官ですが、その機能が加齢によって衰えるのです」(平松氏)
味覚障害に詳しい東北大学大学院歯学研究科の笹野高嗣教授(口腔診断学)はこう解説する。
「『甘い』『苦い』といった“味”は、食べ物と接触する舌が受けた刺激が、信号として脳に伝達されて感じられるもの。この信号伝達に何らかの乱れが生じると、味の感じ方がおかしくなる。この乱れは、ストレスや体調不良、高齢者が飲んでいることの多い降圧剤や糖尿病治療薬によって引き起こされることもあります。そのため、結果的に高齢者に味覚障害が多くなる」
※週刊ポスト2017年10月13・20日号