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真矢ミキ 「いい男に育った」と言われた亡き父との思い出語る

亡き父との思い出を語る真矢ミキ

 情報番組『ビビット』(TBS系)のMCなどを務める元宝塚のトップスター・真矢ミキさん。今回は彼女が、2004年に他界した父との思い出について語る。

 * * *
 父親が定年退職を迎えた1995年、私は宝塚のトップになった。舞台のセンターに立つ私に、母は「世代交代なのかな…」と、寂しそうに呟いていた。母より妻なんだ…と、当時の私はもどかしく思った事もあった。堰を切ったように、父は仕事をやめてから体調を崩していった。「ぼくを必要とする人はいる?」――誰よりもポジティブな父がそんなことを言う日もあったらしい。

 航空関係の企業に勤めていた父は、高度経済成長期にバリバリと仕事をこなす、絵にかいたような企業戦士だった。がむしゃらに働いてきた人が急に目標を失ってしまうと、肉体も精神もこんなにも弱ってしまうものなのか。急に世界がガラリと変わる定年。果たして、人間のメカニズムにあっているのだろうか。

 車だって急に止めればタイヤやら、運転手に何らかの支障がでるもの…かなりのスピードで走ってきた仕事人間の父に、定年は、あまりにも苛酷なブレーキだったのかもしれない。

 そこから約4年後。今度は私が宝塚を退団し、少しの間、無職となった。トップ引退。自分で決めたものの、約20年走った宝塚。やはり退団は定年退職みたいに、重みある時間との決別だった。でも、17才から働いていた私には、仕事をしない日々は新鮮かつ、楽しい充電期間でもあった。

 家族との時間。それは、宝塚入学で家を出た15才の春以来だった。私も35才、すっかり大人になっていた。今までできなかった家族での旅、沢山語り合いたいお互いの20年間、将来の計画…と時間がいくらあっても足りない山積みの思い。

 しかし皮肉な事に、この時、父はかなり進行した癌になっていた。

 私が幼い頃から、玄関に座って靴を履いている時の広い背中の印象が強い父は、大変仕事のできる多忙な人。更にちょっとしたハンサムで、私の自慢の父だった。付き合いもよく、知人友人の多い人だった。空港に行くと私は、そんな父の親友、親戚のおじちゃんみたいな大人達に、よく可愛がられたものだった。

 日曜だけは、父を独占して、あぐらで新聞を読む父の脚の中にすっぽりとハマって座った。私の特等席なのだ。

 また父と私は一卵性双生児のように顔も性格もよく似ていた。互いに社交的で楽しい事が大好きだった。「大きくなったらパパが赤いハイヒールを買ってあげるね」。父は私を女の子らしく育てたかったようだ。

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