戦後よりももう少し後の時代を扱ったものとして【3】『首相官邸の決断』(御厨貴、渡邉昭夫インタビュー・構成)がある。内閣官房副長官を竹下内閣から村山内閣まで務めた石原信雄の証言録だ。
官を辞してから余りに早くの公表のため、当時首相だった橋本龍太郎をして、「石原、よくここまでしゃべったね。大丈夫かなあ」と官邸詰めの記者に語らしめたというエピソードがある。それほど速報性と迫真性とを備えていた。類書も出たが、文庫化して15年、今やこの作品こそが歴史の検証にもたえうる決定版として残った。
石原は早い時期に後難を恐れず、我々のオーラル・ヒストリーに応じてくれた。このことによって、同時代の他の証人たちの語りを次から次へと引き出すのに実に役に立った。今を語ることの意味あいを充分に味わうことができる。今アカデミズムでは「内閣官房」や「官邸主導」の研究が盛んであるが、本書は最初に読むべき作品となった。
【4】『情と理』(御厨貴監修)は内閣官房長官、警察庁長官で鳴らした後藤田正晴の回顧録だ。自分を語ることにまったく関心のなかった後藤田に2年半、27回もつき合ってもらうことになったオーラル・ヒストリーのさきがけ的意義をもつ作品。上下巻合わせて単行本として20万部売れたという社会現象にまでなった。
警察官僚から田中派の政治家へ。そして中曽根内閣の官房長官と、政と官の主流を歩いた。これは昭和の男の記録だ。2006年に文庫になって10年余りになるが、毎年着実に売れている。昨年で上巻が8刷、下巻が7刷というから、ベストセラー転じて今やロングセラーの趣きだ。