中国国内の病院は先払いが原則で、支払いを済ませないと治療を受けられない。診療後に費用が請求される日本とは仕組みや考え方が180度異なるため、かの国の人々が日本の病院を受診すると、当然のようにトラブルが起きるのだ。
医療費をめぐるトラブルは日本を訪れる外国人観光客の3割近くを占める中国人のケースが目立つが、他の国からの旅行者のケースも報告されている。
関東のある病院では、腹痛を訴えるメキシコ人男性にレントゲンやCT検査をしたが、終了後に「お金がない」と言われ約3万円を踏み倒された。関西では緊急搬送されたトルコ人が約60万円の医療費を払わずに帰国した例もあった。
近畿運輸局が今年3月に発表した調査によると、大阪府内の147の医療機関のうち、約2割の医療機関が訪日外国人患者の医療費未払いを経験している。こうして踏み倒された医療費の回収は困難を極め、ほとんど泣き寝入りするしかないのが実情だ。通訳を呼んで国際電話で催促しても効果は薄く、母国に“逃亡”されるとお手上げに近い。
国際医療福祉大学大学院の岡村世里奈准教授が解説する。
「外国人観光客の多くは保険証を持たない無保険状態で、しかも日本語ができない。日本の医療機関にとって、今まで経験したことのないタイプの患者です。旅行客の増加に伴い外国人患者が急激に増え、どの病院も同じような問題を抱えています。診察前に概算金額を提示するなど、対策が必要でしょう」
政府目標は2020年に外国人観光客数4000万人を掲げている。医療現場は対策を迫られている。
【PROFILE】西谷格●1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、地方新聞の記者を経てフリー。2009年から上海に渡り週刊誌などで中国の現状をレポートした。2015年日本に帰国。著書に『この手紙、とどけ!』(小学館刊)など。
※SAPIO2017年11・12月号