そんなフィクションとの幸福で成熟した関係を築くためにも、相撲は有効だと星野氏は言う。
「2歳までロスにいた僕は出身地の話が嫌い。文学とサッカーが目的で訪れた南米の、国籍も人種も全てが溶け合う空気に、未来への希望を確信したものです。
なのに日本では最盛期で30万人いたブラジル人労働者も見えない存在にされるし、2017年春場所の照ノ富士への〈モンゴルに帰れ〉ブーイングなんて言語道断でしょ。2014年の〈「Japanese Only」〉事件でレッズに無観客試合を科したサッカー界のように、相撲界はもっと厳しく対処していいと思う。
僕は相撲が差別の温床になることだけは避けたいし、むしろスポーツこそがそれをギリギリ食い止められる砦だと思っている。そして白鵬のスゴさとか、嘉風や安美錦の巧さの話だけを、本当はしていたいんです」
〈相撲ファンを引退することは、もうありません〉という彼の『のこった』宣言は、流れに流されそうになっても徳俵で踏みとどまり、あくまで私的で自由な「好き」をやめないことを、おそらくは意味する。
【プロフィール】ほしの・ともゆき:1965年アメリカ生まれ。早稲田大学第一文学部卒。新聞記者を経て、メキシコへ留学。帰国後は翻訳業の傍ら新人賞に応募、1997年『最後の吐息』で文藝賞を受賞しデビュー。2000年『目覚めよと人魚は歌う』で三島由紀夫賞、2003年『ファンタジスタ』で野間文芸新人賞、2011年『俺俺』で大江健三郎賞、2015年『夜は終わらない』で読売文学賞。ちなみに本書の帯は「嘉風色」。「特殊な緑らしく、お金がかかってます!」。170cm、60kg、B型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2017年12月22日号