新宿の遊郭で騙し騙される男女を描く『文違い』は、登場人物のキャラがそれぞれ立っていて聴き応え充分。『心眼』は演じ方によってはひたすら後味の悪い噺になってしまうが、一之輔は程よく笑いも交えた演出のバランス感が見事で、切ないラストは寂しさよりも夫婦の絆が感じられるのがいい。
4日目のネタおろし『二番煎じ』は師匠の春風亭一朝と同じ古今亭の型。手堅く楽しませる1席で、やり続けていくうちに台詞回しは変わっていきそうだ。
談志は晩年の著書で自分の持ちネタの数を「200くらい」と書いていた。一之輔は今、ちょうど200。2018年の「五夜」でどんな5席が加わるか、楽しみだ。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年1月1・5日号