売野:2曲目の『少女A』で鉱脈を発見したことで、シングルは来生さんのアイドルらしい歌と僕の物議を醸すような歌と交互に出すことになりました。4曲目を『不良1/2』というタイトルで提出したら、「これは行き過ぎだろう」とプロデューサーが『1/2の神話』に直したんですよ。
僕は『少女A』の時から、太いマジックペンで大きくタイトルを書いて目立つように提出していたんですね。そうすると、6曲目の『禁区』は本当に禍々しい。区を上向きにすると『凶』なので、字面が暴力的になる。
ディレクターが「これはちょっと。最終的には『禁区』にしますから、明菜に見せる用に『めざめ』か『あこがれ』というタイトルでどうですか?」と言われたんですよ。罪な話ですけど、本人はレコーディングで『めざめ』のつもりで歌ったものの、『禁区』で発売されました。
松下:明菜ちゃんとは何回もお会いしているんですよね?
売野:1回しか会っていません。明菜さんが何か言ったら、僕に失礼になるとディレクターが気を遣ってくれていたようで。でも、1回だけアルバムのレコーディングに顔を出しました。挨拶を交わしましたが、ふて腐れている様子で、目も合わせてくれませんでした(笑い)。
●松下賢次(まつした・けんじ)/1953年3月2日生まれ、東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、1975年にTBS入社。プロ野球やゴルフなどの実況を中心に活躍。1986年10月2日から2年3か月にわたって『ザ・ベストテン』の司会を務める。自身の結婚式には中森明菜、近藤真彦、田原俊彦などが出席した。
●売野雅勇(うりの・まさお)/1951年2月22日生まれ、栃木県出身。上智大学文学部英文科卒業後、コピーライター、雑誌編集長を経て、1981年に作詞家デビュー。1982年に中森明菜『少女A』でブレイクし、チェッカーズ『涙のリクエスト』、郷ひろみ『2億4千万の瞳』、荻野目洋子『六本木純情派』などヒット曲多数。
●太田省一(おおた・しょういち)/1960年11月13日生まれ、富山県出身。社会学者、著述家。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。アイドルや歌謡曲、お笑いなどに造詣が深い。著書に『アイドル進化論』(双書Zero)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩選書)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)など。
※週刊ポスト2018年1月26日号