韓国の康京和外相が慰安婦問題について「日本の自発的な真の謝罪を期待する」との要求を発表したのは1月9日だった。その日、北朝鮮との南北対話は大きく動いた。
金正恩・朝鮮労働党委員長が元旦の演説で「五輪に代表団を派遣する用意がある」と述べたことに文政権が反応し、電撃的に閣僚級会談を開始したのだ。
そこで北朝鮮の五輪参加が合意に至ると、実務者協議では230人規模の応援団の派遣を北側が表明。「美女軍団」の来訪を韓国側は即座に歓迎した。この間、北朝鮮は「非核化」の要求にはゼロ回答を貫いた。
北主導のシナリオに乗るばかりの文政権の姿勢には韓国内でも困惑が広がった。アイスホッケー女子で韓国側が合同チームを提案したことには、韓国代表のカナダ人監督が「北朝鮮選手を起用しろという圧力がないことを希望する」と吐露した。
もちろん、“平和の祭典”に参加することが北朝鮮の核・ミサイル放棄につながるならば、意味のあることだろう。しかし、元朝日新聞ソウル特派員でジャーナリストの前川惠司氏は、むしろ逆のシナリオを懸念する。
「五輪成功という成果を前に浮き足立つ文氏の足元を見て、北側が“土壇場で不参加”をちらつかせながら、様々な譲歩を求めてくる可能性がある。すでに北朝鮮代表団の滞在費用を韓国側が負担することについて、“制裁違反”にあたるかもしれないと指摘されている。今後、北側は金銭的支援など様々な要求を突きつけてくるのではないか」
それが金正恩体制を今のまま永らえさせることにつながりかねないわけだ。