ライフ

【井上章一氏書評】京都学派の大家たちの酒場の自己演出

櫻井正一郎・著『京都学派 酔故伝』

【書評】『京都学派 酔故伝』/櫻井正一郎・著/京都大学学術出版会/2000円+税

【評者】井上章一(国際日本文化研究センター教授)

 京都大学の人文学をになった学者たちが、この本ではとりあげられている。酒の飲みよう、酒席での振る舞いに、叙述の力点がおかれている点は、類書とちがう。酒とのつきあいにこそうかがえる学者たちの資質を、書きとめようとする本である。

 吉川幸次郎は中国文学研究の大家として知られている。ただ、酒癖は悪かった。からみ酒の気もあったらしい。たとえば、人類学者の梅棹忠夫も、その標的にされたことがある。文献学の吉川は、梅棹らのフィールドワークを、いっさいみとめようとしなかった。古典の読めないお前は馬鹿だと、毒づいたのである。まだ若かった梅棹も、しかしおじけずやりかえす。その場では、たがいの罵倒がつづいたのだという。

 碩学吉川と新進の梅棹が、ののしりあう。いい話だなと、私は思う。京都大学の黄金時代を代表する英雄伝説として、私はこの逸話をうけとめる。今は、もうありえない話だなと、往時のかがやきをあおぎ見る気にもなる。

 いっぱんに、「京都学派」の呼称は、戦前の哲学者たちへ冠される。しかし、当時の学者は、ほとんど酒をくみかわさなかった。専門の別をこえて飲むようになったのは、敗戦後の現象であるという。

関連記事

トピックス

佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
9月6日に悠仁さまの「成年式」が執り行われた(時事通信フォト)
【なぜこの写真が…!?】悠仁さま「成年式」めぐりフジテレビの解禁前写真“フライング放送”事件 スタッフの伝達ミスか 宮内庁とフジは「回答は控える」とコメント
週刊ポスト
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
《長野立てこもり4人殺害事件初公判》「部屋に盗聴器が仕掛けられ、いつでも悪口が聞こえてくる……」被告が語っていた事件前の“妄想”と父親の“悔恨”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン