片山:派遣問題の延長線上に、同年6月の秋葉原事件(※注4)もあるのでしょう。
【注4/2008年6月、元派遣社員の男が17人を殺傷した無差別通り魔事件。ネット上の掲示板に犯行を賞賛するコメントが多数寄せられた。】
佐藤:秋葉原にトラックで突っ込んだ加藤智大は「みんな不幸になればいい」と考えた。人生の幸、不幸に顔や学歴は関係ない。すべては運だ、と。運が悪ければどうなるか、証明しようと凶行に走ったのです。
片山:戦前、社会に対する不満を抱く人間は、原敬や団琢磨など権力を持つ特定の誰かを狙った。しかしいまは権力のシンボルが存在しないから特定の個人に収斂しない。
憎しみの対象は、豊かに暮らしていそうな人。楽しく生きていそうな人。その象徴が秋葉原だった。ターゲットは個ではなく“場”です。その意味では昨年立て続けに起こったパリのシャンゼリゼ通りや、マンチェスターのコンサート会場で起きたテロとの共通点も見いだせますね。
●かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究家。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『近代天皇論』(島薗進氏との共著)。
●さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。共著に『新・リーダー論』『あぶない一神教』など。本誌連載5年分の論考をまとめた『世界観』(小学館新書)が発売中。
※SAPIO 2018年1・2月号