以来、親の愛情を知らない利根は3人で囲むささやかな食卓を心の拠り所とする。中でも2人の父親役も兼ねるけいの人生哲学がいい。カンちゃんが母親の職業をからかわれ、自室のドアに〈ソープランド〉〈ビッチ〉などと落書きされた時のこと。利根から〈傷つけられたままだと、そこから組織が腐っていく〉と諭され、悪戯した同級生を待ち伏せて頭上からペンキをぶちまけたカンちゃんに、けいは言う。〈ちょうどいい罰だろうね。それ以上厳しかったら、加害者と被害者が逆転しちまう〉

 そしてこの「相応の罰」の難しさが、読む者をラストまで翻弄するのである。

「仮に殺人犯の動機が復讐だったとして、その罰が相応かという問題は残る。役所は〈不正受給〉の問題もあるから申請を全部通すわけにもいかないし、その上で彼らの職業倫理や公私の葛藤について、考えてもらえたらいいなと思って」

 読者は利根ら3人の蜜月を愛すればこそ殺意に寄り添いすらし、生活保護の実態を知るほど遠のく答えを、犯人側への共感を抱えつつ考えさせるところが、本書最大のしてやられた感と言っていい。笘篠自身も震災で妻と子を失い、護れなかった自分を責めてきただけに、けいの末路には怒りすら覚えるが、それと犯罪をゆるすこととは別の問題だ。

「僕もこれらの実態には人並みには怒ってますよ。ただそれを主張するための作品ではないです。僕には主義主張や承認欲求が微塵もない。むしろみんなが感じていて言葉にならないことを言語化するのが作家の仕事で、奇を衒った謎や展開で読者を楽しませるのだけがエンタメではないと思う。

関連記事

トピックス

大谷翔平を支え続けた真美子さん
《大谷翔平よりもスゴイ?》真美子さんの完璧“MVP妻”伝説「奥様会へのお土産は1万5000円のケーキ」「パレードでスポンサー企業のペットボトル」…“夫婦でCM共演”への期待も
週刊ポスト
「横浜アンパンマンこどもミュージアム」でパパ同士のケンカが拡散された(目撃者提供)
《フル動画入手》アンパンマンショー“パパ同士のケンカ”のきっかけは戦慄の頭突き…目撃者が語る 施設側は「今後もスタッフ一丸となって対応」
NEWSポストセブン
結婚を発表したPerfumeの“あ~ちゃん”こと西脇綾香(時事通信フォト)
「夫婦別姓を日本でも取り入れて」 Perfume・あ〜ちゃん、ポーター創業の“吉田家”入りでファンが思い返した過去発言
NEWSポストセブン
村上宗隆の移籍先はどこになるのか
メジャー移籍表明ヤクルト・村上宗隆、有力候補はメッツ、レッドソックス、マリナーズでも「大穴・ドジャース」の噂が消えない理由
週刊ポスト
(写真右/Getty Images、左・撮影/横田紋子)
高市早苗首相が異例の“買春行為の罰則化の検討”に言及 世界では“買う側”に罰則を科すのが先進国のスタンダード 日本の法律が抱える構造的な矛盾 
女性セブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン