トリの雲助は『芝浜』。芝浜の描写をカットする古今亭の型ではなく、財布を拾う件をリアルタイムで描写する三木助系の演出で、魚屋の名は勝五郎、拾った金は四十二両。財布を拾ったのは夢だと聞かされ「大川に身でも投げるか」と弱音を吐く亭主を女房がバシッと叩いて「いい加減におし! 性根をお据え!」と叱る場面が印象的だ。改心した勝五郎が贔屓客を取り戻すワンシーンの挿入も効果的。弟子の桃月庵白酒は古今亭の型をベースに滑稽噺テイストの『芝浜』をこしらえたが、ここは雲助の演出を踏襲している。
3年後の大晦日、女房が真実を打ち明ける場面も感情過多に陥らず、感謝する勝五郎に女房が「子供ができたのでお祝いに」と酒を勧める演出もあざとさを感じさせない。「江戸の市井にあった、ちょっといい話」として、しみじみとした余韻を残す。胃にもたれない『芝浜』だ。
江戸落語本来の魅力を今に伝える、肩の凝らない三人会。「こういう会を待っていた!」という好企画だ。第2回は3月8日の開催。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年2月16・23日号