さて、ここからが与正氏の巧みなところ。文大統領は御しやすいと見たのだろう。彼女の態度が友好的なものへと変わっていく。最初の見下すような表情とはうって変わって、昼食会の会場に向かう途中で撮られた写真では、文大統領と歩幅を合わせるように歩き、笑顔を向けているだけでなく、上半身を文大統領のほうに向けているのだ。
ソウルで開かれた北朝鮮の三池淵管弦楽団の公演でも、文大統領の隣の席で観覧。前を向いて舞台を見る文大統領のほうを向き、柔らかい表情を見せて話しかけている与正氏の姿が撮られている。文大統領が北朝鮮にさらに好意的になるよう、仕掛けていたのではないだろうか。
というのも、公演が終わって立ち上がった与正氏は、文大統領の顔を見ながら自ら彼の手を取って握ったのだ。それも相手を立てるよう、自分の手を下にして握手した。これがダメ押し。文大統領の心を完全に掌握したという印象だ。
でもここで与正氏は、文大統領の手首辺りに左手を添えることも忘れなかった。両手で相手の手を挟むようにすると、握手の意味を自分から変化させることができる。添えた左手で手首を握れば、相手の動きを封じてしまうことさえできるのだ。相手を尊重したように見せかけて、その首根っこを押さえにかかる…、添えられた左手が北朝鮮の思惑そのものにさえ見えてくる。
訪韓後、北朝鮮が公表した写真には、してやったり的な笑みを浮かべる金委員長と、身体を寄せて腕を組みうれしそうに白い歯を見せて笑う与正氏が写っていた。平昌五輪終了後、“ほほえみ外交”は一体どんな展開を見せるのだろうか?