たとえば第5条では米国が日本を守るのはわが国の「施政下にある領域」に対する武力攻撃が発生した場合と定められており、仮に中国の武装漁民が尖閣に上陸して中国国旗を立て、実効支配を宣言すれば、「もはや日本の施政下にない」という理屈で安保の適用外とすることも可能だ。
しかも金融市場開放に象徴される米中接近により、米国が中国と正面衝突する可能性はますます低くなった。米中の間で大きなパワー・シフト(力関係の変化)が進む今日、何より重要なのは、同盟国に安全保障を委ねるのではなく、自国の生存は自国で確保することを大方針とすることだ。
内外に多くの敵や弱点を持つ中国に対しては、いかに巨大とはいえ、その四分の一の国力を確保すれば日本は十分に対抗できる。これは私の持論である「対中四分の一戦略」だ。
日本は経済を再生して財政を再建し、軍事、技術、情報など総合的な国力を蓄え、国難に独立独歩で対処する国づくりを今すぐ始めねばならない。
■なかにし・てるまさ/1947年大阪生まれ。京都大学卒業。ケンブリッジ大学大学院修了。京都大学大学院教授を経て、現職。近著に『アメリカ帝国衰亡論・序説』(幻冬舎)、『日本の「世界史的立場」を取り戻す』(祥伝社、共著)がある。
●取材・構成/池田道大(フリーライター)
※SAPIO2018年1・2月号