国内

介護にてんてこまいの女性、宅配便の態度など些細なことに激怒

更年期によるイライラと介護の壁はどう乗り越える?(イラスト/アフロ)

 83才の認知症の母を介護することになった、54才ひとりっ子のN記者(女性)。今回は、更年期症状が出ている中で介護を続けた経験を語る。

 * * *
 いろいろな面で弱くなっていく親。いざ“介護”となった時、引き受ける子世代が、肉体的にも精神的にも万全なのが理想だ。

 でも実際にはそうはいかない。親の介護が始まったときの子世代の年齢が平均50.9才という調査があるが、かくいう私も49才のときに父が急死し、認知症の母が独居になって要介護と認定された。

 50才といえば日本人女性の閉経の平均年齢だ。閉経前後10年間を更年期といい、さまざまな体の変調が表れるが、私にも兆候があった。さらに公立中学に通う娘が、受験という人生初試練を前にし、家中に重い緊張感が漂っていた。

 更年期症状はかなり個人差があるといわれるが、私の場合はイライラ感がメイン。無用な営業電話に、コンビニ店員や宅配便の配達員の無作法な態度に、いちいち鳥肌を立てて怒り、娘や塾の講師のふと緩んだ表情を目ざとく見つけては激怒。何をしても何を見ても、思いがけない亀裂から噴火する感じで、われながら「異常だ」と思うほどだった。

 そこへ来て認知症の母の奇行だ。冷蔵庫の大量の腐った食品、新品を届けても届けても着続ける汚れた服、そして「あたしのお金を盗ったわね。警察を呼んだから」と、延々繰り返されるお約束のセリフ。

 何もかも認知症のせい。本来の母ではないのだと、重々承知しているのに頭の別のところに火がついて、母と腐った肉を奪い合い、汚れた服をこれ見よがしにゴミ箱に捨て、「本当に警察に電話してみなさいよ! 困るのはママよ」と、ドロドロの悪態をついた。

 怒りのエネルギーは伝播するようで、母も気が変になったように怒った。わめきながら母がゴミ箱を漁あさる姿が悲しくて、新たな怒りが再燃した。母の家からの帰り道はいつもゲッソリ。激怒の後に追いかけて来る悲しみは、底なし沼のように絶望的だということを、この年で初めて知った。

 こうして思い出すと当時の私は思い切り不本意な“怒り”に翻弄されていた感じだが、更年期のことも認知症のことも記者として取材し、よく知っているつもりだった。それでもこのザマかということもできるが、どこかで歯止めになり、なんとかその場をやり過ごせたようにも思う。

 そして取材した更年期経験者たちにならい、周囲に更年期を宣言し、苦しいと騒いだことも自分を救った気がする。

「ママは更年期のため爆発しやすくなっているので注意」と、機嫌のよいときに言っておくと、よい距離感を家族の方から作ってくれた。

 家で激怒し、われを忘れて、心臓の鼓動を地震と勘違いして大慌てしたことがあったが、「ママの動悸じゃない? 更年期だからさ~」と、娘が上手に笑い飛ばしてくれて、顔は怒ったまま内心、感謝した。

 母とのバトルも、ケアマネさんらが“介護初心者あるある”として聞き、フォローしてくれたことで、かろうじて母とつながっていられた。

 怒りは止められないが、最後のアクセルを踏み切らずにすめば、なんとか先に進める。それもこの時期に学んだ気がする。人生後半にしかけられた試練を1つ越え、ドタバタの伴走介護はまだまだ続く。

※女性セブン2018年3月1日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ロッカールームの写真が公開された(時事通信フォト)
「かわいらしいグミ」「透明の白いボックス」大谷翔平が公開したロッカールームに映り込んでいた“ふたつの異物”の正体
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《白パーカー私服姿とは異なり…》真美子さんが1年ぶりにレッドカーペット登場、注目される“ラグジュアリーなパンツドレス姿”【大谷翔平がオールスターゲーム出場】
NEWSポストセブン
和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
几帳面な字で獄中での生活や宇都宮氏への感謝を綴った、りりちゃんからの手紙
《深層レポート》「私人間やめたい」頂き女子りりちゃん、獄中からの手紙 足しげく面会に通う母親が明かした現在の様子
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン