「自転車を脇に置いて、少し離れたところに立っていました。駆け寄った5人で救助活動をしていたのですが、その輪にも加わらなかった。ショックで茫然としていた、というよりも、ぼーっとしていた感じで。泣き叫ぶでもなく、ただ近くで見ているというか。到着した救急隊のかたが『自転車の運転手は誰ですか』と聞いたら『はい、私です』って普通に名乗り出ていました」(居合わせた地元民)
茂さんは当日外出しており、午後4時に帰宅してまもなく居間の電話が鳴った。相手は消防署。嫌な予感がしたという。
「家内はあの日、地元の忘年会に参加していました。3時には帰るって言っていたのに家にいないし、携帯にかけても出ない。そしたら消防署から電話があって、『奥様が事故に遭われて大変な状況なので、すぐに新百合ヶ丘総合病院に来てください』って。
タクシーで病院に向かったら、先生が『一分、一秒を争います』と言うわけです。脳に血がどんどん溜まっていて、手術しなかったら今晩がヤマ、手術しても命を取り留める可能性は1%だと。仮に助かっても100%近く植物状態になると宣告されて…。あまりに急な出来事で、現実味がなかった」(茂さん)
診断結果は脳挫傷。医師に懇願し、延命手術を施すも、ほどなくして息を引き取った晶子さん。茂さんは、人工呼吸器をつけた妻の血圧が徐々に下がっていく光景を、静かに見ていることしかできなかった。
「『ちょっと行ってきます』、『はい、行っておいで』と。朝、家内を送りだしてね。あれが最後の会話になるなんて、思ってもみなかった。もっと話したいことがたくさんあったのに…」
茂さんの絶望を慰める言葉は、存在しない。
※女性セブン2018年3月8日号