佐藤優氏(左)と片山杜秀氏 撮影/黒石あみ


佐藤:何もしないという決断は現実でも確かにある。私は原発事故後の報道統制を見ていて、この国は非常時に翼賛体制がとれるのだと思いました。ボランティアもそう。「絆」という言葉に触発されて、3.11でもたくさんのボランティアが被災地に入った。誰も強制していないのに自発的に国に奉仕するボランティアは、現代の翼賛と言える。

 でもボランティア元年と言われた阪神淡路大震災とは違い、3.11は自衛隊が礼賛された災害でした。

片山:救出活動がリアルタイムで報道されましたからね。非常時に力を発揮できる自衛隊の存在が国民に周知された。その結果、自衛隊が被災地で活動する国家のシンボルになりました。

佐藤:3.11は日本人が命よりも職務遂行を優先しなければならない状況に立たされたはじめての経験でもありました。戦後の日本では、個人主義、生命至上主義、そして合理主義が尊重されてきた。それに従えば、自衛官も東電職員も「今日でやめさせていただきます」と言えた。

 でも原発事故に直面して状況が変わった。誰が命を賭けなければ問題は収束できない。誰が命を賭けるのか問われた。

片山:平和国家だろうがなんだろうが、原発が存在する以上、誰かが命を賭すシステムを組み込まなければならなかった。しかしずっと見て見ぬふりをしてきたわけでしょう。日本に内在していた問題が露わになったとも言えます。

 3.11を経験した菅内閣は9月に野田内閣にバトンタッチしました。野田内閣になり、3.11以後の非常時体制が一気に変わったと感じました。最優先課題である原発問題が置き去りにされて、消費増税やTPPが議論の中心になった。

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