◆政治家のレベルを決めるのは国民
一見して元ネタがわかる不祥事や、若手議員の志を阻む党内の力学。優太郎が辞職後に働き始めた介護施設の劣悪な労働状況や、過疎の村で独自の共同体を作って農業に励む若者集団など、本書に詳述される背景は全て日本の現実だ。そして介護現場で使い捨てにされる職員や若者の失望に直面し、次こそ自分の意思で国政の場に立とうとする優太郎と、離党覚悟で志を貫く橋本。二人はやがてよきライバルとなり、与党の古参議員〈渥美〉も交えた三つ巴戦を戦うのだ。
「優太郎はこの国の現実を知ることでようやく大人になり、優等生然として鼻持ちならない橋本も一応筋は通っている。彼は人に厳しい分、自分にも厳しいからこんな法案を考えたわけで、当初はそれぞれ成長もした二人を一騎打ちさせる予定でした。そのどちらか一人を選ばなきゃいけないのが小選挙区制導入後の我々の現実ですし、やはり政治は知性人品に優れたイイ人間がやるべきだと思うので。
一方、エンタメ的には主人公がライバルと闘って勝つ方がもちろんスッキリはする。でもそれだけじゃ面白くない。そこで、世のため人のためを真剣に考える二人の外側に、自分にだけは甘い反対派の渥美という第三の対立軸を置く必要があったんです」
優太郎の失職後、橋本の秘書となる真菜は、そんな二人の変化の格好の観察者だが、中でも彼女が橋本と民主主義について議論するシーンが出色だ。彼は言う。〈社会が不安定になり、生活が苦しくなれば、政治が悪いと一方的にまくし立てる。国民全員が主体性を持って立ち上がるのが民主主義なのに、すべてあなた任せ、政治家任せだ〉〈長期政権を支えた歴代の首相は皆、独裁者タイプだ〉〈ヒットラーだって、選挙で選ばれた〉〈民主主義とは独裁のことなんだよ。国民は良き独裁者を、待ち望んでいるんだ〉