「確かに正論ではあるし、戦後文部省が出した文書を読んでも、日本には民主主義が絶対必要だというわりに、そんな教育は一切してこなかった。その結果が、中身もよくわからないままそれを素晴らしいもののように思いこむ、今の一億総お任せ民主主義なんです。
私が思うに民主主義自体、一人に権力が集中すると危ないから分散させようという性悪説の産物。要は人を信用していないし、ベターではあってもベストな制度ではない。特に西洋に倣っただけの日本の民主主義はシステム的に歪みも多い。本当は日本の風土に合った民主主義が構築されるのが理想だけど、完璧な正解は永遠に出ない気もする」
橋本の法案も議員の覚悟を質すことを真の目的とし、そもそも正解などないのが政治なのだ。だから単なる政争や善玉悪玉論を超えた、優太郎や橋本や真菜の等身大の揺れが、読む者をこれほどザワつかせるのだろう。
「これはよく言われることですが、政治家のレベルを決めるのは国民でしかない。我々は豊田真由子元衆院議員の『このハゲ~』発言や不倫議員を叩く前に、自分たちの不勉強や依存体質を恥じ、答えなき問いを問い続ける途方もなさに、耐えるしかないのかもしれません」
【プロフィール】くろの・しんいち/1959年横浜生まれ。2006年に第1回きらら文学賞を『坂本ミキ、14歳。』で受賞し作家デビュー。2011年刊行の『限界集落株式会社』はNHKでドラマ化もされ(出演/反町隆史、松岡茉優他)、好評を博す。「あの作品も地方再生や経済の話。我々オッサンは好きですからね、政治と経済の話が(笑い)。本書も飲み屋の政治談議の延長で、気軽に楽しんでくれれば嬉しい」。著書は他に『万寿子さんの庭』『長生き競争!』等。177cm、68kg、O型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2018年3月2日号