ライフ

宮沢賢治と父の特異な関係に焦点を当てた直木賞受賞作

直木賞受賞『銀河鉄道の父』作者の門井慶喜さん

【著者に訊け】門井慶喜さん/『銀河鉄道の父』/講談社/1728円

【本の内容】
 宮沢賢治7才の時のこと。赤痢にかかり命の瀬戸際に立った息子に、父・政次郎は周囲の反対を押し切り、隔離病舎で四六時中看病をする。2週間後、賢治は元気に退院したが、政次郎は無理がたたり病に。政次郎の父・喜助は言う。〈「お前は、父でありすぎる」〉──家業である質屋の仕事を継ぐのを嫌がりわが道を行く賢治を陰に陽に見守り励ました政次郎はある時思う。〈子供のやることは、叱るより、不問に付すほうが心の燃料が要る〉。子を思う父の愛が全編にわたって木霊する、感涙必至の直木賞受賞作。

 直木賞の候補になること3度。3度目の正直ですんなり受賞が決まった。決定後はインタビューの申し込みなどが殺到、住まいのある大阪・寝屋川と東京を頻繁に往復することが続いた。

「瞬間最大風速かもしれませんけど(笑い)、忙しすぎて、自分でも今乗ってる新幹線が上りか下りかわからなくなることが。でも、家にいるときの生活スタイルはまったく変わっていません」

 受賞作は、広く知られた宮沢賢治ではなく、父政次郎の視点で描かれているのがユニークだ。賢治について書かれたものは膨大にあるが、父に関する資料はほとんどなく、賢治の本にほんの1、2行、登場する記述をかき集めて、新たに政次郎像をつくりあげた。

「賢治の研究者からはあまりよく言われない人ですが、子供のためにセットで買った学習漫画の宮沢賢治の巻を読んで、『お父さん、立派じゃないか』とぼくは思ったんです。われわれと同じようなことで悩んだり苦しんだり、これは小説に書けると思いました」

 学齢前の賢治が赤痢で入院したとき、政次郎は伝染も恐れず病院に泊まり込んで看病した。汚れ仕事も厭わない。

「史実ですが、明治の男としては非常に珍しいことで、当時の常識とはかけ離れたふるまいです」

 岩手県川口村(現・花巻市)の質屋の三代目に生まれた政次郎は、家業に関心を持たず別の道を選ぼうとする息子に悩みながらも、何とか理解し、支えようとする。小説はこの特異な父子関係に焦点を当てる。

「賢治ってダメ息子だなって思って書き進めていたら、ダメ息子って自分のことじゃないかと気づいたんです。実家の料理屋を継がず、売れない原稿ばかり書いていたという点では、ぼくも宮沢賢治と状況は同じ。でも不思議なことに、書き始めるまでそのことには気づかなかったんですけど」

 歴史に題材をとりつつ、現代にも通じるテーマでひきつける。

「21世紀の人間が共感できるテーマを歴史に見出す。迂遠かもしれませんが、そうすることで人間の本質に迫れるはずです」

 書きたいことのストックは、すでに一生かかっても書ききれないぐらいあるそうだ。

■撮影/矢口和也、取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2018年3月15日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

「第65回海外日系人大会」に出席された秋篠宮ご夫妻(2025年9月17日、撮影/小倉雄一郎)
《パールで華やかさも》紀子さま、色とデザインで秋を“演出”するワンピースをお召しに 日系人らとご交流
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
2024年末、福岡県北九州市のファストフード店で中学生2人を殺傷したとして平原政徳容疑者が逮捕された(容疑者の高校時代の卒業アルバム/容疑者の自宅)
「軍歌や歌謡曲を大声で歌っていた…」平原政徳容疑者、鑑定留置の結果は“心神耗弱”状態 近隣住民が見ていた素行「スピーカーを通して叫ぶ」【九州・女子中学生刺殺】
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(左/共同通信、右/公式サイトより※現在は削除済み)
《“やる気スイッチ”塾でわいせつ行為》「バカ息子です」母親が明かした、3浪、大学中退、27歳で婚約破棄…わいせつ塾講師(45)が味わった“大きな挫折
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
9月6日に悠仁さまの「成年式」が執り行われた(時事通信フォト)
【なぜこの写真が…!?】悠仁さま「成年式」めぐりフジテレビの解禁前写真“フライング放送”事件 スタッフの伝達ミスか 宮内庁とフジは「回答は控える」とコメント
週刊ポスト
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン