アヤコは決めた。後ろは向かない。昔からそうである。ユウマとの日々は本当に楽しかった。本当はずっと一緒にいたかった。けれど、それは叶わなくなった。

 男はたくさんいる。35億。仕事も恋愛も頑張るぞ。絶対ユウマより稼ぐ、自立した大人の男と結婚してやる!

 そんな決意をするほど、ユウマとの別れはアヤコにとって辛かった。

 港区女子デビューしたアヤコは、あっという間にモテ子になった。ハイスペック男性と飲み会を続けるアヤコに、外資系金融のアナリスト・トモキが近づいた。彼は結婚願望がない典型的な独身貴族タイプの年収3000万円ハイスペであり、斎藤工を彷彿とさせる色気があった。トモキはアヤコをドライブや予約が取りにくい鮨屋などに誘いアプローチした。

 久しぶりにまともな独身男に出会った。顔も好みである。そうしたら、子供ができた。結婚願望がなかったトモキも、決断した。

 そして今2歳になる娘がいる。結婚してからというもの、独身貴族のスタイルを変えないトモキに、アヤコは「少しは育児にも協力してほしい」と何回も掛け合った。しかし、「産休で働いていないお前の仕事は、家事と子育て。一人でやるのは当たり前だろ? お前だって結婚したくてしたんだろ?」──そんな言葉しか返ってこなかった。

 確かにアヤコは、がむしゃらに仕事してユウマより稼ぎがある夫を手に入れた。生活に不安定はないが、本当は彼には愛情がなかったのではないか。なんでトモキは私と結婚したのか。そんな疑問が毎日あった。

 笑うことなど忘れていた。毎日トモキに嫌われないように、この生活を穏便に送れるように、娘のために、そんな言葉を頭に並べて生活していた。しかしふと、トモキとこの先死ぬまで一緒に暮らすのかな。と考えたとき、アヤコは決断した。

 離婚して娘と生きていこう。

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