いざアヤコから離婚を切り出すと、トモキは、世間体の話や、養育費の具体的な金額を口に出して「離婚して生きていけるのか」と、経済力で離婚撤回を交渉してきた。が、やはりアヤコは決めたら前を向く女だった。
離婚して2年経つ頃である。大学のサークルの試合があるという告知をfacebookで知った。今まで見てもいなかったサークルのSNS。アヤコは気分転換に、娘と試合を見に行った。
そこにユウマはいた。ユウマは子連れのアヤコに一瞬戸惑ったが、すぐ娘をあやし面倒を見てくれた。
「姉貴が結婚したから、姪っ子がいるんだよね。同い年くらい。かわいいなぁ。元気してた?」
そんな何でもない会話にも、あの頃感じた優しさは溢れ出ていた。トモキと生活していた時とはまるで違う、ギスギスした言葉も棘もない、安らぎがあった。2人はそこからまた頻繁に会うようになった。
すでに医者として働くユウマは、付き合っていた頃より、逞しくなっている。
ユウマもまた同じ気持ちであった。アヤコと別れてから付き合った女性もいたが、みな「東大」「医者」のステータスに寄ってきた人ばかり。しっくりこなかった。
こうして再会したが、子連れになっていたのは驚いた。自分と別れてからすぐ結婚したのか、そして離婚してしまったのか。
思い出した。やはりお互い嫌いになって別れたのではなかったのだ。あの時の精一杯、あの時の限界だっただけだ。
2人は結婚した。アヤコは再婚、ユウマは初婚、2人の間にはアヤコの連れ子がいる。幸せいっぱいだった。
アヤコは思った。ユウマとの楽しい日々、説明なく安らげる日々、手放してしまった苦しみから背伸びをして踏み入れたハイスペ男子との結婚生活。けどそこに求めていたものはなかった。傍から見ればユウマも医者で、イケメンで、かなりハイスペックではある。しかし、彼は港区界隈に出没するような男子ではない。
港区では手に入らない幸福がある。港区女子として幸福な結婚を手にする女もいるが、港区女子としてハイスペック男性と会いまくっても、幸せが逃げていくこともある。アヤコの離婚・再婚話は、いまも港区女子たちの間で参考にすべき例として語られている。