国内

転倒は高齢者にとって命取り、知っておくべき慢性硬膜下血腫

転倒後の慢性硬膜下血腫に要注意(写真/アフロ)

 83才の認知症の母の介護を担うことになったN記者(54才・女性)。日々様々なできごとが起こるが、特に注意が必要なのは高齢者の転倒だと気付いたという。

 * * *
「お母様ですが、今朝、お薬の援助にうかがいましたところ、どうも転倒されたようです。ええ、どうやら昨日、転ばれたようでして…」

 母が住むサ高住(サ高住サービス付き高齢者向け住宅)の中にある介護事業所から電話がかかってきた。頬にすり傷、額にタンコブ、散歩中に転倒したらしいという。

 ということは、頭を打っているじゃないか! しかもひと晩も経過している。

 事務所の担当者は、「ご本人はお元気ですが、頭を打った可能性があるので、検査はした方がいいと思いますが、今すぐでなくてもよいような気がしなくもありません」と、まどろっこしい! 逆に不安になって母に電話した。

「あらNちゃん、久しぶり。え? 私、転んだの? あら、顔がすりむけてるわ。そうそう、転んだら近所の奥さんが助けてくれてね…」と、一昨日通院で会ったことはすっかり記憶になく、昨日の転倒については得意の“作話(さくわ=認知症の症状の1つ。記憶障害のため、妄想と事実が混在する)”が始まった。

 転んだ状況の事実確認は難しいが、ボケ具合がいつもと変わりなく、機嫌も上々。うーん、これを大丈夫と見ていいのか。少なくとも救急ではなく、検査のできる病院に片っ端から電話すると、外来受付は午前中に終わっていた。

 そうだ! 在宅で義母を介護していた友人、なとみみわさんがよく、「ばあさんが転んだ!」と血相を変えていたことを思い出し、即、相談した。

 なとみさんは、「顔面流血したときはさすがに救急車を呼んだけど、他の時は様子を見て翌日に病院へ連れて行った」とのこと。それで事なきを得ていたという。実は私はその日、仕事の締め切りを抱えていた。母のもとへ明日行くことにすれば、塩梅がいい。「でも…これが運命の分かれ道だったりして」と、頭の中で惨事に至る妄想が展開したが、結局、仕事をこなした。

“転倒”というキーワードは、親が高齢ならピンとくる。介護度が高くなる因子の1つで命にもかかわるからだ。それはよく知っているが、母の場合、認知症がありながら、生活にまだまだ意欲があり健脚。安全第一の“守りの介護”より、生きる喜びを追い求める“攻め”の姿勢だと、今は思っている。が、こういうことがあると、やはり足がすくむ。

 翌朝、母を訪ね、病院の外来に並んだ。頬の傷はかさぶたになり、膝が少し痛むと言うが元気に歩いている。「転んだときね、通行人の男性が抱き起してくれてね、車で家まで送ってくれたの」と、話が新章を迎えていた。認知症の母の頭の中は、どんなに勉強しても神秘に満ちている。

 午前中の脳神経外科前は大変な混みようで、高齢者と中年の同伴者のペアの多いこと。この同伴者の何人が私と同じ不安におびえているのだろう。検査の結果、骨折も脳の異常もなかった。心底安堵した。

「でも、頭を打っていると、あとからジワジワ血腫ができることがありますから、ここ2か月くらいは注意してください」と、医師。渡された紙には「慢性硬膜下血種」の説明と、頭痛、吐き気、麻痺、言語障害など、すぐ受診すべき症状が書かれていた。

 慢性硬膜下血腫。また1つ、キーワードが増えた。

※女性セブン2018年3月29日・4月5日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
このほど発表された新型ロマンスカーは前面展望を採用した車両デザイン
小田急が発表した新型は「白いロマンスカー」後継だというけれど…展望車復活は確定だが台車と「走る喫茶室」はどうなる?
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン