もうお気づきかもしれないが、このなりすましメールは、メール受信者をとある「出会い系サイト」に誘導するために送られてきたものなのだ。自称キムタクとのやりとりを続けたければ、出会い系サイトの会員になり、送受信1通あたり、それぞれ100円以上も支払わなければならない……のである。ちなみに「takuya1113」というハンドルネームの数字は、木村拓哉の誕生日である「11月13日」を意識しているのか。今すぐ登録する、と言ったきり15分が経過すると、自称キムタクから、ドカドカとショートメッセージが届き始めた。
「まだ登録してくれてないかな?」
「いつまでも待っているよ?」
「嫌われちゃったかな?」
「解散してからの悩みを聞いてほしい」
「返信して」
「おいこら、なめてんのか」
「あskjdhqjうぇdkq」
「クソババア
「ボケ」
「wdhq。kじぇhf13いhf;1ぃf」
というわけで、一向に出会い系サイトに登録をしない自称女性の筆者には、最終的には嫌がらせのメールが届くようになった。何処までもレベルの低い「迷惑メール業者」であることが、いとも簡単に判明した格好だが、かつて迷惑メール業者に勤めた経験のあるY氏(三十代男性)が次のように打ち明ける。
「ほぼ10年前、ジャニーズタレントなどになりすまして女性を狙うという迷惑メールが流行しました。タレントのテレビ出演やコンサートスケジュールなどを表にまとめて“明日はライブ”だとか”今日の番組に出る”とか、そのタレントである事を匂わせてメールを送るんです。くだらないですが、結構騙される人が多くて儲かった(笑)。騙された人たちのリストはその後転売され、架空請求詐欺にも使われました。」
一方で、今なおこの手法の迷惑メールが送られてきている事実に、首をかしげる。
「そもそも出会い系サイトなんて流行らないし、引っかかる人も少ないはず。だとすると、いちいちこんな面倒な事をしている業者は、相当な時代遅れか、お年寄りの詐欺グループ残党か……」
Y氏によれば、最新のAI技術を使った「成りすまし詐欺」の計画も進められている噂があるという。いつの時代も「日進月歩」(Y氏)という詐欺テクノロジー業界にあって、自称キムタクの哀れさ、救い難さを垣間見て、ゲンナリしたというか時間を無駄にしたというか……。
最近だと「ライン乗っ取り」犯から届いた詐欺メッセージに会えて応じて、そのやりとりをスクショにとって遊ぶ中高生だっている。ネット利用者が増え、国民の過半数以上が携帯やスマホを持っているのだから、自ずとリテラシーだって向上するはず。そんなことも知らずに、いつの時代も、取り残されるグループはいるものだ。