「まず思い出すという行為が大いに脳の刺激になります。あれは何だっけ…と、頭の中を必死で思い出そうとし、探り当てたときの快感と興奮は経験があると思います。これは、たとえば落語やお笑いなど、外からの刺激を受けて笑った快感とは違う、自分の中からこみ上げる能動的な喜びで、より脳を活性化します。

 また人に話すという行為は、頭に浮かんだ思い出の映像を、より伝わる言語を選んで文章にして話すという、実に知的で複雑な作業。脳は酸素をしっかり使ってフル稼働します。 そして自分が語った思い出が聞き手に伝わって共有できた喜びも脳にはよい刺激に。ちょうど同窓会で忘れていた懐かしい思い出を語り合い、“そうそう! そんなことあったな~”という、あふれ出るような喜びと同じなのです」

 ちなみに同じ話すのでも、ネガティブな気持ちに任せて“嫌だ”“つらい”などと抽象的で感情的な言葉を発するだけの愚痴では、脳は活性化しないという。思い出す喜び、一生懸命伝える、喜びを共有できる快感が大切なのだ。

 ところでなぜ10~15才の記憶が大切なのだろう。

「10~15才は、食事、排泄、衛生維持などの日常生活動作が身について完全に自分のものになる年齢。この頃は快感や喜びを司り意欲や動機づけに関連するホルモン、ドーパミンが分泌されやすい時期でもあります。無条件に楽しく、喜びも大きく感じられます。

 この時期の記憶が残っていると、高齢で認知症があっても比較的ADL(日常生活動作)が保たれやすい。そして自分が何者かという認識が失われないので、機能が落ちても不安感が少ないのです。そのため10~15才の記憶を意識的に思い出し、守ることが認知症や介護予防の改善につながります」

◆子世代が親の昔話を聞いてあげるのが理想的

 子世代にとっては、自分が生まれてからの親しか知らない。何もかも知っているようでいて、親が子供だったことを想像したことさえない人も多いかもしれない。

「自分の個人的な出来事を思い出して話すには、聞き手は家族、特に実子が理想です。療法でやるように、思い出を引き出そうなどと技にこだわる必要はありません。親との共通の思い出として自分の子供時代の思い出を語り合って、“お父さん、お母さんの子供時代はどうだったの?”と、要はおしゃべりを楽しめばよいのです。特に高齢男性は、長年仕事の世界で生きてきて、自分の子供の頃のことを人に話す機会も、人から聞かれる機会もほとんどなかったはず。

 それだけに心療回想法を行う現場で、彼らが思い出をよみがえらせた時の喜びようは、女性以上です。ぜひゆっくり昔話を聞いてあげてみてください」

※女性セブン2018年4月12日号

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