──カジノ構想が出て以降、ギャンブル依存症対策はどこまで進んでいる?

田中:何も決まっていないに等しい状態です。ギャンブル依存症対策基本法という、ぼんやりした枠組みしか出ておらず、これから中身を詰める段取りになっています。

 しかも、依存症問題で先行するアルコール問題も自殺防止の政策もなんでもそうですが、みな関係者会議が開かれ、産業側や当事者家族なども交えて実現性を持った計画を出していきます。でも、ギャンブル依存症は次の段階に至るものが杜撰そのもの。関係者会議すら入っていません。このままいくと、国が決めた大ざっぱな法案で終わりという事態になりかねません。

──国は「入場料6000円」とか「7日間で3回、28日間で10回まで」とする入場制限を敷いて対策をとろうとしている。

田中:入口の部分だけでは依存症の抑止効果は見込めません。そもそも入場料をとれば、6000円分の元を取ろうと熱くなる人も出てくるでしょうし、入場回数が制限されたとしても、依存症の人は日ごろからギャンブルのことで頭がいっぱい。主に土日に集中開催される競馬で依存症者が後を絶たないのがいい例です。

──カジノに頻繁に行けなくても、競馬や競艇、パチンコなどギャンブルをする環境はいくらでもある。

田中:日本はギャンブル大国で、公営競技はネットでも投票できますからね。ただ、身近にあるパチンコであれば、アクセスの良さと習慣性で依存症を発症している人が多いので、入場制限をすることで一般の人たちが依存症を発症する率は下げられるでしょう。例えば、パチンコの一斉定休日を週1回設けるとか、近所にギャンブルをする環境や時間が減っていけば、長い目で依存症の予防にはつながるかもしれません。

 しかし、依存症は根が深く、これさえやっておけば皆が回復できるという特効薬はありません。対策は一朝一夕にはできず、真剣に向き合うにはもっと社会の介入システムを築き、それなりの予算を確保しなければできません。

──求められる依存症対策とは?

田中:まずはギャンブル依存症の正しい知識や予防教育、そして当事者や家族に治療・回復支援を施す人材を育成することが必要です。民間でも私たちのように回復者がやっているシステムはありますが、そこに繋げたり社会的な信用を与えたりする風潮になっていません。

 なによりも他の依存症に比べて受け皿が圧倒的に少ないのが問題です。

 いま、ギャンブル依存症の回復プログラムがある自助グループ(グループセラピー)は全国に170ありますが、アルコール依存を治療するグループは1500以上、推定人数10万人といわれる薬物依存のグループでも210あるので、いかにギャンブル依存の受け皿が少ないかがお分かりだと思います。回復施設に至っては数か所しかありません。

──そもそも、ギャンブル依存症を回復させる自助グループやカウンセラーの存在自体を知らない人が多い。

田中:広く国民に啓発するのも簡単なことではありません。インターネットで情報を出しても、高齢者家族の中にはネットを使いこなせない人もいますからね。その証拠に、私たちが地域のフリーペーパーに相談会の案内などを載せると、30~40代のギャンブラーで引きこもりの子どもを持つ70~80代の親からの相談が圧倒的に多い。案内ページの切り抜きを財布に入れて「初めて知りました」と。

──依存症者を抱え、相談するアテもなく苦しんでいる家族は想像以上に多い。

田中:電話相談や5~8回の心理教育プログラムといったサポートは広がりつつありますが、家の中で「カネをくれ」と包丁を振り回したり、病人扱いに激怒してますます引きこもったり、失踪中だったりと重症者がいる家族たちへのアプローチは何もないのが現状です。こういう人たちを救うサポートは、医療や行政、地域との連携が欠かせません。

 ギャンブルが原因で度々罪を犯している人の刑務所プログラムなども必要でしょう。私は過去に、前科10犯の人から「ギャンブルをやめたいのにやめられない」と手紙をもらったこともあります。でも、10犯になる前に国に何とかしてほしいと思いますし、私たちのサポートだけでは限界もあります。

 アメリカなどでは飲酒運転でも自助グループがある回復施設に行くか刑務所に行くか選択するようなシステムができあがっていますが、日本には何もありませんからね。

関連キーワード

関連記事

トピックス

テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
福地紘人容疑者(共同通信社)
《“闇バイト”連続強盗》「処世術やカリスマ性」でトップ1%の “エリート模範囚” に…元服役囚が明かす指示役・福地紘人容疑者(26)の服役少年時代「タイマン張ったら死んじゃった」
NEWSポストセブン
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン
パーキンソン病であることを公表した美川憲一
《美川憲一が車イスから自ら降り立ち…》12月の復帰ステージは完売、「洞不全症候群」「パーキンソン病」で活動休止中も復帰コンサートに懸ける“特別な想い”【ファンは復帰を待望】 
NEWSポストセブン
「交際関係とコーチ契約を解消する」と発表した都玲華(Getty Images)
女子ゴルフ・都玲華、30歳差コーチとの“禁断愛”に両親は複雑な思いか “さくらパパ”横峯良郎氏は「痛いほどわかる」「娘がこんなことになったらと考えると…」
週刊ポスト
話題を呼んだ「金ピカ辰己」(時事通信フォト)
《オファーが来ない…楽天・辰己涼介の厳しいFA戦線》他球団が二の足を踏む「球場外の立ち振る舞い」「海外志向」 YouTuber妻は献身サポート
NEWSポストセブン
海外セレブも愛用するアスレジャースタイル(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
「誰もが持っているものだから恥ずかしいとか思いません」日本の学生にも普及する“カタチが丸わかり”なアスレジャー オフィスでは? マナー講師が注意喚起「職種やTPOに合わせて」
NEWSポストセブン