そして他の2チェーンに比べ、より牛丼に特化している吉野家も4月26日に「牛」ではない新メニューを投入した。「鶏すき丼」(並盛450円)と15―24時限定の「炙り塩鯖定食」(690円)である。
これまでも吉野家は焼鮭や鰻などのメニューを投入してきたし、冬場の「牛すき鍋定食」など卓上調理メニューもある。だが、炙り塩鯖定食は、実際に客の目の前でバーナーを使って、鯖の皮目をまんべんなく炙る。オペレーションにも負荷は桁違い……。というわけで、こちらは15―24時の時間限定提供となっている。
各チェーンにおける舵取りも難しくなる。新メニュー開発に注力するか、それともTPP発効時に38.5%から27.5%に下がる関税を視野に入れながら、アメリカ以外の新規調達先を模索するのか。トランプ大統領がTPP復帰をほのめかすなかUS牛にこだわるという選択肢も十分考えられる。
牛丼チェーンも、もはや「うまい、やすい、はやい」だけで勝負するのは難しい。吉野家は2016年2月期の決算当時「現在のビジネスモデルに代えて、長期的に運用できる『新しいビジネスモデル』の構築が中長期的な課題」と明言し、「3カ年中期経営計画」を策定。今年はその最終年に当たり、次なるビジネスモデルの道筋をつけるべき節目の年である。他の2社にしても、牛を巡る情勢が不透明なのも、難しい経営判断を迫られるのも変わらない。
今後、消費者である我々が牛丼チェーンでどんなメニューにありつけるかは、各チェーンの経営判断にかかっている。そして我々自身も一杯の牛丼に対して「うまい」「やすい」「はやい」のバランスを選択しなければならなくなる。つまるところ、外食における多様性とはそういうことなのだ。