磯田:深みという点では、『独眼竜』で岩下志麻さんが演じた政宗の母(義姫)が素晴らしかった。政宗ではなく、弟の小次郎にばかり愛情を注ぐわけですが、もちろん政宗が可愛くないわけではない。嫡男である政宗は「伊達家のもの」であり、自分の好きにはできない。当時の武家の厳しい家庭の現実がある。
政宗も母を慕うが結果として弟を殺す悲劇に至ってしまう。その時代ならではの心の葛藤をそのまま描くほうが、現代の親子関係なんかに引きつけるよりいい。人間社会の本質に迫る作品になる。それこそが史劇の面白さです。
●ジェームス三木(じぇーむす・みき)/1935年、満州生まれ。脚本家、作家、演出家。『独眼竜政宗』『八代将軍吉宗』『葵 徳川三代』など、大河ドラマの脚本をはじめ多くの執筆活動を行なう。
●磯田道史(いそだ・みちふみ)/1970年、岡山県生まれ。歴史学者。国際日本文化研究センター准教授。近著に『素顔の西郷隆盛』(新潮新書)、『日本史の内幕』(中公新書)など。
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)など。本誌・週刊ポストで「役者は言葉でできている」を連載中。
※週刊ポスト2018年5月4・11日号