その選択には、カトリック側から冷たい視線を投げかけられた。バチカンからの復帰の誘いを拒否した彼らには、「もはやキリスト教でもない」というレッテルが貼られていく。
この分野の研究の中心にいたのは、カトリック系の研究機関の学識者たちだ。県の公式調査報告書も、その一人を中心にまとめられる。結果として、生月島の信仰は、「土俗宗教に変容したもの」という評価が定着していく。
だが、先述の通り、生月の信仰には、16世紀の形式が確かに残されている。それなのに、そこには光は当てられなかった。かつて1万人近くいた生月島の信徒はいま、約300人にまで減少している。その一人、舩原正司さんは、平戸市生月支所長だ。
「行政職員としては、県をあげてやってきた世界遺産登録が近づいたことはよかった。でも、信者としては別です。先祖が守ってきたことをつなぐのが本当に難しくなってきた……」
その複雑な表情を見れば、世界遺産が本当に大切なものを評価したといえるのか、問い直さなくてはならないと思うのだ。
●ひろの・しんじ/1975年、東京都生まれ。ジャーナリスト。1998年、慶應義塾大学法学部法律学科卒業。神戸新聞社記者を経て、2002年に猪瀬直樹事務所にスタッフとして入所。2015年10月よりフリーランス。第24回小学館ノンフィクション大賞受賞作『消された信仰』が6月1日に発売予定。
※週刊ポスト2018年5月25日号