【書評】『私物化される国家 支配と服従の日本政治』/中野晃一・著/角川新書/820円+税
【評者】香山リカ(精神科医)
森友学園、加計学園の問題が浮上してから、次々に不祥事が明るみに出ている安倍政権。それでも支持率は3割前後を保ち、とくに若い男性の支持率が高いという。
それはなぜなのか。ひとことで言えば、政治学者である著者が本書で述べる通り、安倍総理が「ポスト冷戦の新自由主義(ネオリベラリズム)グローバル化時代の保守反動の旗手」だからだろう。
安倍政権がこだわる「日本らしい日本」などのイメージは国家主義的でいかにも復古調であるが、同時に「アベノミクス」は新自由主義的で“小さな政府”を目指しているようにも見える。それじたいが矛盾しており、また都合のよいときだけ政府が強権を発動し、困っている人には「自助の精神でなんとかして」ではいかにも無責任なのだが、それが若い層の目には、頼もしくまた新しく映って見えてしまっているのだ。
それだけにとどまらず、さらに大きな問題はタイトルにもなっている「私物化」である。かつての保守政治家も「バラマキ」と呼ばれる利益誘導にいそしんで問題になっていたが、安倍政権下で便宜を図られたり利益を手にしたりしているのは、「『お友だち』という特権的な地位にあるごく一部の業界関係者」だけなのだ。さらに本書では、メディアにまでその「私物化」の手が伸びようとしていることが浮き彫りにされる。