家族の理解と仲間たちの協力で、機関車製作に取り掛かったのは2016年2月。関連する工場や職人たちの力を借り、角田氏が引いた図面を元に新たな機関車を構成する部品が次々と成田ゆめ牧場の工房へと運ばれた。仕事以外のプライベートの時間を注ぎ込み、寝る間も惜しんで組み立てた。機関車は明治時代に日本に2両輸入されたものをモデルとしているが、中身は最新式とした。熱効率を改善した新製ボイラーや、煤煙を出さず1人で乗務できるように灯油炊きとするなど、様々な工夫をこらした。また、埼玉県で作られた動輪以外、すべて千葉県内の工場に発注するなど、“メイド・イン・千葉”を意識した。
蒸気エンジンや走行装置など、すべてのパーツが組み上がったのは製作開始から2年が過ぎた今年の4月末だった。5月3日、ついに機関車に初めて火が入る日が来た。駆けつけた会員たちの前で、ドームに燃料となる灯油を注ぎ、ボイラーに着火。18時55分、機関車は軽快な音を立てて走り始めた。そして無事、冒頭で紹介した5月20日のお披露目の日を迎えたのだ。
角田氏には夢の続きがあるという。「亀の子」機関車を量産し、日本のみならず、世界の遊園地で走らせたいという夢だ。
「デジタルのバーチャルリアリティが現実のものとなった今の時代だからこそ、本物が持つ意味を見直し、子供たちの心に残る実体験をさせたいのです」(角田氏)
近い将来、「亀の子」の“弟分”が“世界で一番新しい蒸気機関車”となって我々の前に登場する日が来るのかもしれない。
【成田ゆめ牧場】
住所:289-0111 千葉県成田市名木730
営業時間:9:00~17:00(最終入場16:00。12月~2月の冬季期間は平日10:00~16:00、休日9:30~17:00営業)
場内にある「まきば線」は通常ディーゼル機関車が使用しているが、イベント(5月、9月、11月など)に応じて「亀の子」などの蒸気機関車も運転される。
◆取材・文・撮影/白川淳(旅行・鉄道ライター)