こうした状況に歯止めをかけるべく行動を起こしたのが、三越伊勢丹ホールディングスの大西洋・前社長だった。2012年夏に「バーゲンセール開始時期の後ろ倒し」を掲げ、7月下旬に夏のバーゲンを開始した。1980年代のバーゲン開始時期に戻したのである。これにルミネも追随した。
三越伊勢丹とルミネという二大有力流通がこの方針を打ち出したことから大きな話題となった。三越伊勢丹は「定価販売時期を長くすることで収益性の改善」を、ルミネはなぜか「産地保護」を、それぞれ謳った。
個人的な感想をいうと、三越伊勢丹の掲げた理由はあまりにも業界寄りで自己都合でしかなく、ルミネの掲げた理由は意味不明だ。なぜなら、衣料品の75%(金額ベース)は海外生産品なので、海外の縫製工場を保護したいのか? ということにしかならないからだ。
これらの商業施設に出店、納品しているアパレルメーカーやブランドからは歓迎の声が聞かれるかと思いきや、意外にもそれほどなかった。なぜかというと、「他の施設ではすでにバーゲンが始まっているのに、三越伊勢丹とルミネにだけ違う対応をしなくてはならなくて非効率」(アパレル関係者)だからだ。付ける値札一つ取っても三越伊勢丹とルミネ用だけは別にしなくてはならない。確かに想像するだけで面倒くさい。
しかし、2017年春に大西前社長が電撃解任されたことで、このセール後ろ倒しは完全に潰えた。2018年1月の冬のバーゲンから三越伊勢丹もルミネも他の商業施設に合わせて1月4日からとなった。すでにルミネも2018年1月3日にバーゲンセールを開催しており、バーゲンセール開始時期の後ろ倒しを事実上撤回している。
さらに今年の夏のバーゲンも三越伊勢丹は6月29日開始を発表している。これによって「バーゲンセール開始時期の後ろ倒し」という試みは完全に失敗に終わったといえる。
バーゲンセール開始時期の後倒しがどうして失敗に終わったのか。アパレルメーカーの言う面倒くささや、ルミネ以外の他の商業施設、流通企業との足並みがそろわなかったほかに、インターネット通販の隆盛も大きかったのではないか。