地下水や井戸水と地震の関連も古くから伝えられている。昨年から今年にかけて、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている埼玉県秩父市の「妙見七つ井戸」が立て続けに涸れた。
江戸時代後期の武士・池道之助は、1854年に起きた安政南海地震に際して、〈大地震の前には急に井の水へる物なり、へらぬ井戸は濁る物なり。(中略)大揺りには井を見るべし〉と手記に残している。
1970年に刊行された吉村昭の『三陸海岸大津波』には、明治、昭和の三陸地震で、いずれも井戸水の渇水や濁りなどの異常が報告されたとある。1978年1月の伊豆大島近海地震の前にも、井戸の水位の変化などが伝えられていた。海洋地質学に詳しい地球物理学者の島村英紀氏がいう。
「地震発生前の地殻変動が地下水に影響を及ぼし、井戸や温泉が涸れたり、逆に新たに湧き出たりすることがあります。ただし、地下水はかなり離れた場所でも影響を受けるので、大量の汲み上げなど、人為的な作用が原因であることも多い」
ただの迷信と切り捨ててよいものか──。地震学者による「予知」がなかなか成果を残せない中、地震大国に住む我々にとって、警戒すべき兆候ではありそうだ。
※週刊ポスト2018年6月15日号