検事総長候補と評されるエリート検事の林は、現場の捜査検事からの信頼も厚い。このときの人事で法務省の事務次官になり、続いて東京高検検事長、検事総長という階段をのぼると目されていた。
それが、一足飛びに名古屋高検検事長に就任した。本来、名古屋高検検事長は“あがりポスト”であり、そこで検察の人事が狂ってしまった。法務・検察組織にとって、衝撃的な人事といえた。なぜ、そんなことが起きたのか。
「それは官邸、すなわち内閣人事局の影響とみて間違いない」と、ある特捜部長経験者が、こう説明してくれた。
「安倍一強で霞が関の幹部人事を牛耳っているといわれる内閣人事局ですが、司法の独立という建前上、検事の人事だけは口を出せないことになっています。だからこそ、政権にとって検察は最も怖い。そこで官邸が頼りにしてきたのが、黒川(弘務)事務次官だといわれています」
法務・検察官僚は赤レンガと呼ばれる法務省と捜査現場の検察庁を行ったり来たりするのが普通だが、黒川は法務省官房長、事務次官を7年も務めてきた。それだけに政権中枢と極めて近い。法務・検察内部では、2年前の2016年、17年とすでに交代案が出ていたが、結局流れ、事務次官として留任してきた。「官邸の守護神」ともいわれる。
「黒川君は安倍政権の悲願だった共謀罪法を成立させるため、野党に働きかけてきた。菅官房長官をはじめ最も官邸の覚えめでたい法務官僚だといわれています。だが法務・検察組織としては、さすがにこのときの人事で地方の高検検事長にすることにしていた。ここでそれがひっくり返ったのです」