当然のことながら、黒川を事務次官に留めおこうとすれば、林はほかに異動させるほかない。そこで名古屋高検の検事長にしたのだという。それは法務・検察組織にとって、まさに異例中の異例人事だった。が、まかり通った。
そして、それは大阪地検の森友捜査を封じるためではなかったか。そんな人事に対する不信が検察関係者のあいだから沸き起こる。それも無理のないところだった。この件について、ある大阪地検関係者はこう解説した。
「官邸といえども検事総長や高検検事長の検察人事には介入できない。しかし法務省内の事務次官留任なら、内閣人事局の管轄だから、思い通りになる。世間の風当たりを気にしたのか、この人事は表向き上川陽子法務大臣が決めたことになってはいますが、官邸に無断でここまでの人事ができるわけがない。というより、官邸の意思で黒川君を事務次官に留任させたとみたほうが正しいでしょう。ここまで見せつけられると、森友捜査は地検マターではなく、政治判断という話になりますよ」
文字どおり奥の院の謀だけに、特捜部の捜査にどう影響があったのか、真偽のほどは定かではない。ただ現に大阪地検の捜査が、立件に向かわなかったのはたしかだ。
「東京から参加した応援検事を4月に元に戻すという異動が決まっていたから、2月中には不起訴の判断が出ていました。『二・二六人事』にはたしかに一部で期待があったが、しょせん大きな流れを変える力なんかない。
なにより特捜部の山本真千子部長などは捜査開始当初からやる気を感じませんでした。彼女は本来、昨年夏の異動が決まっていた。なのに告発があったせいで、いかにも捜査をやらされているような感じ。それでは現場の士気があがるはずもありません」(同地検関係者)