一般に50歳くらいから体力が少しずつ落ち、仕事のスピードも遅くなっていく。その代わりに雑務は増えていき、もどかしさが募っていく。
情熱を傾け、必死にもがいていたころと違い、60代になるとある程度、やってきたことの成果を得ることができる。人生の達成感は得られるが、同時に、自分でつくった形に縛られて、がんじがらめになってしまう。そんな焦りが壁となって、目の前に立ちはだかる。70歳の壁である。
自分で築いてきた「城」に安らぎを感じるならば、それはそれでいい。でも、もっとおもしろく生きたいと願うならば、やはり冒険に出たいとぼくは思う。「まあまあ幸せだから、いいか」というような中流の呪縛から抜け出したい。
ジンさん自身はとりあえず、妻の実家がある京都に引っ越した。龍谷大学で教壇に立ち、年の半分はチェンマイのパーヤップ大学で仏教を学びながら修行するという。
友人として、収入や暮らしのことがちょっと心配になったが、ジンさんはこれも修行の一つと思っているようだ。
「自由でいいですよ。ワッハッハ」
すっかり身軽になったように、ジンさんの声は軽やかだ。